EV失速でどうなる? 電池覇権#3Photo by Masato Kato

かつて日産自動車の子会社だったAESCが、再生可能エネルギーに注力する中国エンビジョングループの傘下に入り躍進を続けている。国内では茨城工場で生産力増強を進めるとともに、グローバルでは現在の約20倍に当たる400GWhもの生産能力を確保するという。特集『EV失速でどうなる?電池覇権』の#3では、AESC創業メンバーの一人である野田俊治・AESCジャパン常務執行役員に、この一大構想の真意を語ってもらうとともに、車載バッテリーのフルラインアップをそろえる「全方位戦略」の思惑を明かしてもらった。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)

LFP、三元系、全固体電池の開発…
EVの“次の波”に備えラインアップを充実

――電気自動車(EV)市場の盛り上がりが冷え込んでいるといった声も聞かれます。世界の電池市場の現状と今後の成長見通しをどうみていますか。

 長期的なトレンドでは、EV化が進み続けると思います。世界の主要国がCO2削減を掲げていて、カーボンニュートラルが待ったなしの課題となっていることは変わりません。

 最近、EVの普及が踊り場に来たという印象もないことはないですが、2020年代の後半から30年代にかけて、もう一度大きな波が来るでしょう。

――次にEVの波が来たときに、リン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)や三元系(ニッケル、マンガン、コバルトの3元素を正極に使用したリチウムイオン電池)など、どの種類の電池が伸びてくるのでしょうか。

 例えばLFPは、比較的コンパクトな車に向いています。そういった特性を考えると、「どこか一つだけが伸びる」というのではなく、バランスよく伸びていくと思っています。LFPも三元系も伸びるということです。

 そこで、当社の強みであるラインアップの広さが活きてくるのです。

――開発中の全固体電池も、いずれラインアップに加わるのでしょうか。

 その通りです。当社の全固体電池はまだラボレベルではありますが、しっかりとした特性が出せていて、競合他社より進んでいると思います。全固体電池は三元系やLFPと共存していくことになります。

 全固体は、初めは高級車など限定されたマーケットに入っていくとみています。業界全体で見ても、直ちに液体リチウムイオン電池が全固体に置き換わっていくということはないでしょう。

――グローバルで年間生産能力400GWhを掲げています。この数字を掲げるに至った経緯を教えてください。

次ページでは、AESC創業メンバーの一人である野田氏が、「グローバル400GWh構想」の真意を明かす。さらに、かつての親会社である日産との関係についても語っている。積極的な顧客開拓を進める中、日産の位置付けはどうなるのだろうか。