円安を改善するのに必要不可欠なのは
実力を高め「金利のある経済」に戻すこと

 わが国が金融緩和の強化を重ねることが必要な背景に、経済の実力(潜在成長率)の低下がある。世界のGDPに占める、わが国のシェアの推移を確認すると一目瞭然だ。内閣府によると、世界のGDPに占める日本の割合は1980年に9.8%だった。95年には17.6%まで高まった。2010年に8.5%、足元では4%程度に落ち込んだ。

 日本銀行が公表している潜在成長率の推移を確認すると、1990年時点でわが国の潜在成長率は4.0%を上回っていた。それがバブル崩壊後、時間の経過とともに低迷した。2020年度後半(20年10月~21年3月)はコロナ禍の発生もあり0.22%にまで低下した。

 その後は徐々に持ち直し、23年10~12月期は0.68%と推計されたものの、1%後半から2%代前半との見方の多い米国との経済の実力の差は大きい。IMF(国際通貨基金)によると25年、インドはわが国を追い抜き、世界第4位に浮上する見通しだ。

 わが国の潜在成長率の低下の要因は、バブル崩壊後の経済状況にあるだろう。急速な資産価格の下落と、景気悪化に直面したわが国の企業は成長よりも「守り」を優先した。また、政府による不良債権処理も遅れた。1997年度までは公共事業関係費の積み増しで景気を下支えしたが、IT先端分野など成長期待の高い分野へ経営資源を再配分することが遅れた。

 国内の多くの企業が、人材をはじめとしたコスト削減に走り設備投資も縮小した。一方、労働者サイドは、年功序列や終身雇用などの雇用慣行の維持を経営陣に求めた。こうして日本の労働市場では、成長期待の高い分野や企業にヒト・モノ・カネが再配分されにくくなった。

 日本企業から高価格帯の新しい製品やサービスを生み出す機会が少ないこともあって、賃金は伸び悩んでいる。OECD(経済協力開発機構)のデータによると、1991年~2022年の間、OECD加盟国の平均賃金(年間)は32.5%上昇したが、わが国は2.8%にとどまった(22年の購買力平価ベースの米ドル基準)。

 中東情勢の緊迫化や異常気象による農作物の生育不良、米中対立などさまざまなリスクを考えると、今後、世界的に物価は高止まりする恐れがある。日本経済の実力回復が遅れると、「円売り圧力」が続く可能性は高い。経済の実力を高め、金利のある経済状況に戻すことこそ、通貨危機的と言われかねない円安の状況を改善するのに必要不可欠である。