海外の投資家にとって円金利の低さ
潤沢さは見逃せない収益チャンスに

 1990年代初めに資産バブルが崩壊して以降、わが国では事実上、ゼロ金利の環境が続いた。2013年以降は、“アベノミクス”により異次元の緩和策が強化された。日銀は国債流通市場から長期国債を大規模に買い入れ、大規模に通貨供給量を増やした。

 16年2月から、日銀はマイナス金利政策も実施し、極端に金利が低い環境が出現した。そうして21年春先以降、世界的に物価の上昇が鮮明になっても、わが国は異次元の緩和を継続し、多額の資金供給を継続してきた。

 現在、GDP比で見た通貨供給量(マネーストック)は約2倍と、主要先進国の中でも圧倒的に高い。つまり、国内の円資金が有り余っている。米FRBは物価安定のための利上げに加えて量的な引き締め(QT)を実施したが、わが国の金融政策はそこまで至っていない。主要中央銀行のバランスシート規模(対名目GDP比)に関して、日銀は約120%に達した。この水準は米FRB、英国のBOE、欧州のECBを上回る。

 海外の投資家にとって円金利の世界的な低さ、潤沢さは見逃せない収益チャンスとなっている。ヘッジファンドなどの主要投資家は、日米の金利差を使って大規模な円キャリートレードを行った。

 4月中旬時点で米国の2年国債の流通利回りは約5%だった。一方、わが国の2年金利は、3月のマイナス金利政策解除で幾分か上昇したものの0.3%程度だった。円で資金を調達して米ドルに換える、ドル資金を用いて米国の短期国債を購入するなどして、主要投資家は高い利得を追求できる。そうした取引が連鎖的に増え、円売りに拍車がかかった。米商品先物取引委員会(CFTC)のデータによると、4月23日時点で、為替先物を使った円売りの水準は18万4180枚だった。06年以降の最高水準である。

 また、豊富な円資金の一部は、24年から始まった新NISAをきっかけに海外に流出した。他方、海外の金融・経済の専門家の間では「今回の通貨危機的な円安は、日本政府の自業自得」との指摘もある。それほど1990年以降の、わが国の緩和に緩和を重ねた金融政策は、円の減価圧力を高めた。