この段階で、外来の初診で、私たちのはじめての出会いです。

 痛みのためにオピオイド(医療用麻薬)がかなり増えており、「痛みだけは何とかしてほしい」というご希望でした。

 当方が薬を調整して、痛みをコントロールしていきます。

 しばらくは安定した状態でしたが、徐々に体調は悪くなります。

 ある日、いよいよ動けなくなった、と、妹さんのアパートへ往診の依頼です。

 行ってみると、Nさんはもう布団から出ることもできず、トイレにも行けない状態になっていました。

 このあと、どうしますか?

 在宅で最期まで、という選択肢もあることは説明しましたが、そこは自宅ではなく、妹さんの家です。これ以上の面倒をかけることはできない、と、入院を希望され、F病院に入院となりました。

 Nさんは、医学的な知識も、理解力もある人でした。

 胆管がんというのは、確かに治りにくいがんの代表格であり、薬も効きにくくはありますが、どうして最初から標準治療を拒絶されたのか?

 とくに私たちに理由を語られることはありませんでした。

 それにしても、本当にとことんお金が尽きるまで、免疫療法にお金をつぎ込み続ける必要があったのか……。

 Nさんは、入院して腹水を抜く処置をしたところ、一時的に回復し、食欲も少し出ました。ベッドの上にしばらく座っていられる程度への回復です。

 私たちが病室にお見舞いに行ってみたところ、「ナントカD水」とかいうパンフレットを見ています。友人が持ってきてくれた、と。

 その水は、がんや難病、何にでも効くのだ、と書いてあります。もちろん、非常に高額です。

 財産をすべてなくしたNさんに対して、まださらにお金をむしりとろうというパンフレットを持ってくる人がいる。

 しかも、ニセ医学の典型的なうたい文句です。

 Nさん、それは「本当の友だち」でしょうか?

 本当の友だちなら、そんなこと絶対しないですよ。

 Nさんはその数日後、病院でそのままお亡くなりになりました。