日本最大級の食品メーカー「味の素」。その名を知らない人はいないだろう。そんな味の素は近年企業としても急成長を見せ、まさに日本を牽引する大企業になっている。しかし、そんな味の素も常に順風満帆だったわけではない。数年前までは株価、PBRともに停滞し、企業として危機に瀕していた。そんな味の素がなぜ生まれ変わったのか、「味の素大変革」の立役者である味の素・元代表取締役副社長の福士博司氏による企業変革の教科書『会社を変えるということ』がこの春発刊された。本記事では意識改革を基盤に会社の株価、PBRなどを3年で数倍にした福士氏の考え方を本文から抜粋・再編集するかたちでお届けする。
「実は口だけだよね」と言われる人が働くときにやってしまっている悪習慣
労使関係を最重視する大企業の場合、その議論は主に、労使協議会で行われます。経営にとっても従業員(組合員)にとっても、労使協議会は一番の大きな問題解決の場です。
しかし、この労使協議会について私には、三十余年ずっと悶々としていたことがあります。それは、経営陣と従業員(組合側)の対話のなかで、いつも中間管理職がやり玉に挙げられることでした。
ほとんどの議論の場で、従業員(組合側)は「経営陣には、これまでの労使の信頼関係に基づき、しっかりとした舵取りをお願いしたい」と言います。もちろん、多少の忖度はあるでしょう。
また、組合側は「経営課題を組合員も自分ごと化して、懸命にチャレンジしている」とも主張し、これに対しては、経営もいつも「組合の努力を高く評価する」と答えますが、こうも付け加えます。「経営を取り巻く環境は激変しており、一層の努力を期待する」です。ある種の様式美になっているところもありますが、ここまではいいでしょう。
私がずっと納得行かなかったのは、従業員(組合側)をコントロールすべき中間管理職が、経営の方針をしっかり把握しておらず、組合員のマネジメントが適切に行われていない、もしくは職場によって大きなばらつきがあることが問題提起されることでした。
ですから、従業員(組合側)は「経営は、中間管理職をしっかりと指導していただきたい」という決まりきった要請を出すのです。
労使協議会ですから、従業員側の代表として、組合幹部が出席し、会社側の代表として、社長以下の経営陣が議論するわけですから、議論の場に中間管理職は1人もいません。表面上は、いかにも真摯な議論が行われるのですが、その場に不在の「中間管理職」がいつも批判の対象になるのは、おかしなことだと思い続けてきました。