しかし、高齢になれば事故を起こす確率が高くなるというデータなどありません。確かに高齢者、中でも75歳以上の事故は多いですが、それでも16~24歳の事故件数のほうがずっと多いのです。その現実から目を背けて、高齢者の運転は危険だと決めつけ、免許を返納させるのは間違いです。

「高齢の人は認知機能が衰えているから車の運転は危ない」というのは、根拠のない決めつけで差別です。

 そもそも、普段は車の運転で暴走や逆走をしない人が不自然な事故を起こすのは、薬による意識障害が原因ではないかと私は考えています。

 高齢になると複数の薬を常用している人が多く、代謝も低下していることから副作用が出やすくなり、低血圧や低血糖、低ナトリウム血症などになると意識障害も起こしやすくなります。事故を起こした運転手がそのときの状況を「よく覚えていない」と言うことがありますが、これも認知症より意識障害を疑っていい証言でしょう。

 そして、75歳以上の高齢者の起こす死亡事故の4割は自爆といわれる、ものにぶち当たって自分が死ぬというものです。これだって、意識障害が原因のことが少なくないはずです。

 70代、80代は自由な時間を楽しみ尽くすことが人生最大のテーマです。そのためにも、移動手段の選択肢を減らしてはいけません。とくに外出の手段が限られる地方に暮らす高齢者ほど、車の運転をやめてはいけません。

 週に1度の買いものや通院に車を使っているような人は、免許を返納したら動きが取れなくなります。生活の自由度が大きく低下して、老いを一気に加速させます。

 自分の用事のために誰かに車を出してもらうのは気が引ける、などと遠慮しながら暮らすことになれば、家に閉じこもりがちの生活になり、運動機能も脳機能も衰えていきます。高齢者が免許を返納すると、「偉い」「賢明な判断ですね」などと褒められますが、実際には老化を加速させることにつながります。