100業種・5000件以上のクレームを解決し、NHK「ニュースウオッチ9」、日本テレビ系「news every.」などでも引っ張りだこの株式会社エンゴシステム代表取締役の援川聡氏。近年増え続けるモンスタークレーマーの「終わりなき要求」を断ち切る技術を余すところなく公開した新刊『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』に需要が殺到し、発売即、続々と異例の大重版が決まっている。
本記事では、高齢化が進む時代の「シルバー人材の活躍事例」を、クレーム対応という側面から特別掲載する。(構成:今野良介)
定年退職者の再雇用でクレーム激減
クレーム対応においては、同僚との横のつながりや、「エスカレーション対応」を支える縦のつながりが重要ですが、さらに、「古参社員」や「OB」とのつながりが功を奏する場合があります。
1つ、私の顧問先での事例を紹介します。
-------メーカーの事例--------
「室長も頑張っているし、私もお手伝いしますが、いまのままでは大きなトラブルが発生したとき、スムーズに対応できるか心配なんですよ」
顧問先であるメーカーでクレーム案件を1つ処理した後、営業部門の責任者や、お客様相談室の室長と一献傾けながら、私は本音でこう話した。
この会社は、ヒット商品にも恵まれて業績は好調だったが、商品の瑕疵を問いただすクレーマーに悩まされ、お客様相談室にはひっきりなしに問い合わせや苦情の電話がかかってきていた。
「トラブルが起きたらサポートしますが、すぐにはかけつけることができない場合もあります。だから、今のうちに社内の体制を整えておいたほうがいい」
私がそう進言すると、営業責任者も同意した。
「そうですね。このままでは室長もつらいでしょう」
同社は全国規模で営業展開しているが、お客様相談室は室長以下、数名のスタッフで切り盛りしていた。各人は忙しく立ち働き、とりわけ実直な室長は、クレーム対応の責任を一身に背負っていた。
また、営業所の負担も大きかった。クレームが発生するたびに、営業所長をはじめとする社員がお客様を訪問してお詫びしたり、商品を回収したりしなければならない。クレーム対応のよし悪しで、営業所の成績も大きく左右される。
そこで検討されたのが、お客様相談室の専任スタッフを増強することだった。室長が対応しきれない部分をフォローしたり、お客様相談室と営業現場の橋渡し役を務めたりするのである。
「どんな人がいいんですか?若くて、これから育てる人がいいんですか?」
営業責任者が候補者のイメージを尋ねるので、私はこう答えた。
「いや、逆に室長より年配で、営業経験が豊富な人がいいでしょう。そのほうが打たれ強いし、声のトーンや見た目も貫禄があったほうがいい。肩書きは『相談役』でも何でも構わないでしょう。ただし、フットワークのいい人であることが大切です。実際に現場に行ける人でなければいけません。いま求められているのは、部門間の調整役ではありません。ここで人選を間違うと、身内のアラを探す嫌な管理者がひとり増えるだけになってしまいますよ。社員のモチベーションが高まるどころか、逆効果になりかねません」
こんなやりとりを経て、白羽の矢が立ったのは定年退職した元営業担当者だった。現役時代は、現場でモンスタークレーマーと何度も遭遇している。
さっそく、本人に「嘱託として再雇用したい」と伝えると、快く承諾してくれた。
そして数か月後……。前年、私が直接サポートした案件は何十件にものぼったが、年が明けると、ピタリと依頼がこなくなったのだ。
(了)
この社員がメンバーに加わったことで、お客様相談室の雰囲気はずいぶん変わったようです。
クレーム対応の達人ではなくても、矢面に立ってサポートしてくれる先輩が身近にいることで、室長を含めたメンバーに心の余裕が生まれたのです。そのことが結果的に、冷静な対応につながったのでしょう。また、クレーム対応力における人材育成にも一役買っているはずです。
このように、「先輩」とのつながりは、高齢化社会が進む今後の組織づくりにおいて、1つのポイントになると言えるでしょう。
また、次のケースのように、クレーマーと担当者のジェネレーションギャップを埋める効果も期待できます。
---------健康食品メーカーの事例----------
ある健康食品メーカーのコールセンターでは、60代半ばで引退した男性社員が、75歳になって現場に復帰した。