運転をやめることで外出の機会が減り、人と会ったり話したりすることも減ると、活動量もどんどん減っていきます。免許返納は、維持できるさまざまな機能や楽しみや意欲を自分から手放すことになりかねないのです。

 免許返納は要介護になるリスクが高いということを、ぜひ覚えておいていただきたい。免許は返納せず車の運転はできるかぎり続ける。もし、運転する自信がなくなったらやめる、それでいいと私は思います。

できないことを嘆くより
できることを続ける努力を

 ここまで70歳、80歳を過ぎても続けてほしいことを書いてきました。最後にひとつだけアドバイスを付け加えさせてください。

 それは「できることを減らさない」ということです。残念ながら、高齢になればなるほど体の機能は少しずつ衰えていきます。それは誰も避けることはできません。ただ、すべてのことができなくなるというのは、本当の末期状態になってからの話です。寝たきりになっても話はできることが多いし、人を楽しませるような面白い話ができれば人も集まってきます。

 認知症になっても、初期段階であれば車の運転も含めてほとんどのことができますし、かなり重度になっても、できることは残るものです。

 私は介護する家族の方に、できなくなったことを嘆くより、今何ができるかを見てそれを大事にしてあげてくださいとアドバイスしています。運転ができるのに免許返納などもってのほか。実際、筑波大学の研究では運転をやめた高齢者は6年後に要介護になるリスクが2.2倍になるとされています。

 今、歩けるなら散歩を続ける。今、料理ができるなら作り続ける。

 前頭葉の刺激にはならないかもしれませんが、今、できていることが減らなければ、少なくとも今のADL(日常生活動作)のレベルは、かなりの期間にわたって保たれるのです。可能なら新しいことにチャレンジしてほしいと思いますが、できないことも増えていくでしょう。それでも必要以上に落ち込まず、今できることに感謝してそれを続ける努力だけは重ねてほしいと思います。