シティグループ証券株式会社取締役副会長。一橋大学大学院博士過程修了、経営法博士。北京大学日本研究センター特約研究員、慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員などを兼務。2006〜2010年日経アナリストランキング日本株ストラテジスト部門5年連続1位。『はじめてのグローバル金融市場論』(毎日新聞社、2009年)、『グローバル通貨投資のすべて』(東洋経済新報社、2012年)など著書多数。近著に『金融緩和はなぜ過大評価されるのか』(小社刊、2013年)。
藤田 中央銀行としての独立性を強化した日銀法改正(98年10月施行)後に初めて政府の反対を押し切って解除したものの、誰がどう見ても明らかな失敗だったわけですよね。私はリフレ論者ではありませんが、そのときの反省が日銀という組織内、さらに日本全体においてできていないのではないかという懸念は抱いています。謙虚に過ちを認めたうえで、後世の教訓として生かすことが重要だと思うんです。FRBのグリーンスパン前議長も、「リーマンショック(2008年)は100年に1度の信用の津波」と捉える一方で、「自らが実施した金融緩和が過度だった側面もある」旨の発言をしています。人間は誰しも間違えるものですし、きちんと非を認めることもマーケットとのコミュニケーションにつながるのではないでしょうか?
翁 そのとおりだと思います。ただ、そもそもの失敗の原因は、当時の日銀総裁の人選基準にあったと思います。
藤田 な、なるほど……。
翁 速水さんは金融政策については“信念の人”でした。信念と理屈では議論になりません。「理屈はともかく、中央銀行員として、僕は君たちにこういう信念を持ってほしいんだ!」と机を叩いて怒鳴られて話が終わってしまうからです。
藤田 そうだったんですか。
翁 速水さんが総裁に選ばれたのは、その前に旧大蔵省と日銀の接待汚職が発覚したことが大きく影響していました。それを踏まえて速水さんが敬虔なクリスチャンで高潔な人物であることを重視し、かなり高齢で日銀を去ってから20年近いブランクがあったにもかかわらず担ぎ出されたのです。
むろん中央銀行の総裁は身辺は綺麗である必要はありますが、人格的な高潔さより、理論が理解でき、柔軟にいろいろな駆け引きができる人の方がいい。つねに客観的に情勢を見渡しながら、自分の考えを相対化してオープンマインドで対峙できるような人が望ましいわけです。