円安に振れて株価上昇も顕著になったことからアベノミクスが賞賛されがちだが、積極的な金融緩和でデフレを退治するというリフレ政策は本当に有効なのか?新刊『金融緩和はなぜ過大評価されるのか』を上梓したシティグループ証券副会長の藤田勉さんと、『金融政策のフロンティア:国際的潮流と非伝統的政策』などの著書がある現京都大学公共政策大学院教授で、日本銀行を代表するエコノミストだった翁邦雄さんが、リフレ論を一刀両断する。

米国は日本で言われるほど極端な緩和に踏み切っていない

藤田 金融政策に関して、専門家の議論は大きく3つに分かれていると思います。

 まず、リフレ政策に懐疑的な人たちが唱える、「マネタリーベース(市中に出回る通貨と日銀当座預金残高の合計値)、マネーストック(金融機関の預金残高の合計値)とも日本銀行(以下、日銀)はコントロールできない」という説です。これに対し、逆に「どちらもコントロール可能だ」と反論するリフレ派と、その中間として「マネタリーベースはコントロールできるが、マネーストックは不可能だ」という意見です。

 いずれの派も独自の哲学に基づいて持論を主張しており、まるで宗教同士の対立のようです。議論は平行線をたどったままで、結局は情緒論に帰着しがちなように感じます。

 なるほど、情緒論ですか。

藤田 特に浜田宏一先生の著書『アメリカは日本経済の復活を知っている』を読んでいると、つくづくそう感じます。

翁邦雄(おきな・くにお)京都大学公共政策大学院教授。1974年東京大学経済学部卒業。同年、日本銀行入行。シカゴ大学Ph.D.(Economics)取得。日本銀行金融研究所長を経て、2009年4月より現職。専門は金融論、金融政策論、中央銀行論、マクロ経済学、国際金融論。『期待と投機の経済分析ーー「バブル」現象と為替レート』(東洋経済新報社、1985年)、『ポスト・マネタリズムの金融政策』(日本経済新聞出版社、2011年)など著書多数。近著に『金融政策のフロンティアー国際的潮流と非伝統的政策』(日本評論社、2013年)。

 かなり売れているらしいですね。

藤田 翁先生がこれまで書かれた論文や著書を拝読したところ、「基本的に、マネタリーベース、マネーストックともコントロールできない」というお考えではないかと思っています。この認識は適切でしょうか?

 率直に申し上げると、正しくないですね(笑)。

 なぜなら、「マネタリーベースをコントロールできない」というのは、あくまで金利がついている局面での話です。金利がゼロになった後は、日銀当座預金の残高を増やしてマネタリーベースを拡大できますし、現にこれまでにもそういった政策が打たれてきました。ただし、広義のマネーストックについては、日銀がコントロールするのは難しいと考えています。

藤田 なるほど。それでは、3つのうちの中間的なご意見ということですね。

 ところで、かつて翁先生と熾烈なマネーサプライ(マネーストックの旧称)論争を繰り広げた岩田規久男先生が日銀副総裁に就任されましたが……。