『ジョジョの奇妙な冒険』で登場人物が窮地の際、「決して起こらないこと」とは?写真はイメージです Photo:PIXTA

荒木飛呂彦氏の代表作『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズのスピンオフ漫画『岸辺露伴は動かない』。同作は、人気漫画家の岸辺露伴が遭遇した怪異や不思議な出来事について語る見聞録だ。伝承文学研究者の植朗子氏は、この作品を荒木氏が描く「新しい神話」と分析する。『岸辺露伴は動かない』1巻の3話に収録されている「富豪村」のストーリーと露伴の「決断」を軸に、作品のテーマを読み解く。※本稿は、植朗子著「キャラクターたちの運命論『岸辺露伴は動かない』から『鬼滅の刃』まで」(平凡社、平凡社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

「富豪村」の土地を手に入れるために
山の神々から出された試験に臨む

 先の記事で触れた『岸辺露伴』シリーズと伝承文学との関連性について論じるために、収録話のちょうど「真ん中」に配置された第3話「富豪村」を取り上げてみましょう。

「富豪村」の物語は、露伴が打ち合わせ中に、女性編集者から別荘地の購入の相談を持ちかけられたことから始まります。山奥のとある別荘地には11軒の豪邸が立ち並んでいました。

 この土地はたった数人の住人のためだけに伊勢丹デパートが出店しているという不思議な場所です。居住者がいかに「お金持ち」なのかが想像されます。

 そして、この富豪村にはある噂がありました。「25歳でこの山の土地を買った人物は必ず大富豪になる」と。夢のような話ですが、この土地の購入には厳格なルールが課せられています。購入希望者は、山中にある屋敷を訪れて、「山の神々」が提示した「マナーの試験」を受けねばなりません。それに合格した者だけに富が与えられる、という仕組みになっています。

 露伴たちに対する山の神々からの課題は、食事や訪問の際のマナーという極めて現代的なものでした。「来客が座る席の上座・下座の位置関係」「畳の縁を踏まない」「お茶を飲む時のカップの持ち方」といった、現代の社会において形骸化しつつある「つまらない」ルールが問われます。

 これらはともすれば滑稽なもののようにすら思えます。山への信仰という古めかしさと、社会における比較的新しいマナーの要素が、チグハグに連動し合って、「富豪村」の物語の「奇妙さ」を強調していきます。

 しかしながら、このエピソードにおいて、マナーを破った人間に「山の神々」が与えた懲罰はあまりに深刻なものでした。「山の神々」は女性編集者に「死」を背負わせます。これに対して露伴は強く反論し、罰を取り消すことを懇願します。