人気漫画『岸辺露伴は動かない』の構造を専門家が分析→もはや伝承文学のレベルだった!写真はイメージです Photo:PIXTA

シリーズ累計1億部を超える超人気マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』のメインキャラクターのひとり、岸辺露伴が主人公を担うスピンオフ作品『岸辺露伴は動かない』は、本編同様多くのファンに支持されている。ストーリーの面白さはもとより、同作は神話や伝説など、不思議な出来事を伝える「伝承文学」のような要素が楽しめるという。伝承文学研究者の植朗子氏が『岸辺露伴は動かない』第1巻全5話の構成やストーリーから、伝承文学の視点で同シリーズの魅力を解説する。※本稿は、植朗子著「キャラクターたちの運命論『岸辺露伴は動かない』から『鬼滅の刃』まで」(平凡社、平凡社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

『岸辺露伴は動かない』は
岸辺露伴の見聞録

 先の記事で基本情報を紹介した『ジョジョの奇妙な冒険』第4部のキャラクター・岸辺露伴が主人公として描かれているスピンオフ作品『岸辺露伴は動かない』は、1話完結型の短編集の形をとっています。いったいどのような話で構成されているのでしょうか。

『岸辺露伴は動かない』の単行本1巻の表紙の作者コメント欄には、このような説明が付されていました。

「本書は、その露伴先生の見聞録短編集です。内容も舞台がイタリアから山奥から海岸まで、バラエティに富んでいる5つの不気味話がそろってくれたので、楽しんで頂けると更に嬉しく思います」(荒木飛呂彦『岸辺露伴は動かない』1巻)

『岸辺露伴は動かない』1巻に収められた5つの不気味な話について、収録順に整理してみます。このシリーズは日常に潜む「怪異」がテーマの作品集です。怪異現象の原因となる幽霊や妖怪、神などの「人外の存在」が描かれているのですが、実は怪異研究のための学術用語(術語)には、これらを統一する言葉がありません。

 不思議な事件や、奇妙な出来事は「怪異」と呼ぶのですが、「怪異を引き起こすモノ」を総括するような語がないのです。それらは研究者の専門分野によって、さまざまな呼ばれ方をしています。

 そこでここでは、他の術語の定義との混同を避けるため、私の造語ではありますが、これらを「怪異体」と呼称することにします。伝承文学研究の分野では、怪異を引き起こすモノ自体も「怪異」と呼ぶことがありますが、本稿では怪異の主体となるものと、怪異事象とを区別するために、別々の呼称を使用します。