『ジョジョの奇妙な冒険』岸辺露伴はなぜ魅力的なのか?伝承文学研究者の解説が納得だった!写真はイメージです Photo:PIXTA

神話、伝説、メルヘン、迷信など、人々によって語り継がれてきた物語を指す「伝承文学」。これらの多くは「大衆のための物語」だった。怪異をテーマとした伝承文学を研究する植朗子氏は、マンガは現代における「大衆のための物語」で、学術的な意味も含むものだ、と語る。世界的人気を誇る少年漫画『ジョジョの奇妙な冒険』、そのスピンオフ作品『岸辺露伴は動かない』にも、伝承文学的な要素を読みとることができるという。ここでは『ジョジョ』の第4部と同作屈指の人気キャラ・岸辺露伴の魅力を解説する。※本稿は、植朗子著「キャラクターたちの運命論『岸辺露伴は動かない』から『鬼滅の刃』まで」(平凡社、平凡社新書)の一部を抜粋・編集したものです。

人気を博した『ジョジョの奇妙な冒険』
『岸辺露伴は動かない』シリーズ

 荒木飛呂彦の『岸辺露伴は動かない』シリーズは、人気漫画家・岸辺露伴が不思議な出来事を語る一種の“奇譚集”です。自分が遭遇した奇妙な事件の顛末を他者に語り聞かせることで物語が始まります。

 露伴はあくまでも「奇妙な事件の目撃者」という立ち位置であり、その事件にみずからが積極的に「動くわけではない」ため、このタイトルがつけられているのですが、物語が進むにつれて、彼は毎回恐ろしい現象に巻き込まれていきます。

 この作品の主人公であり、同時に「狂言回し」である岸辺露伴は、もともとは荒木飛呂彦の代表作『ジョジョの奇妙な冒険』第4部「ダイヤモンドは砕けない」のメインキャラクターでした。このシリーズの主要な登場人物は「スタンド使い」と呼ばれる異能者で、『ジョジョ』のスピンオフ作品『岸辺露伴は動かない』においても、「スタンド」(*)という特殊能力の設定が保持されています。

(*)…編集部注:作中に登場する生命エネルギーが具現化したもの。そのパワーが本体のそばに立つことからスタンド(幽波紋)と呼ばれる

『ジョジョ』第4部では、露伴は物語の「主人公」ではありません。たしかに主要人物ではあったのですが、1登場人物でしかなかった彼が、なぜこれほどまでに絶大な人気を得るようになったのでしょうか。

 ではここで、『岸辺露伴』シリーズについて説明する前に、マンガ『ジョジョの奇妙な冒険』に登場する「ジョジョ」と呼ばれる人物たち、そして岸辺露伴のキャラクター特性について分析してみましょう。伝承文学の主人公たちの多くがそうであるように、彼らには、「純粋な正義の心」が描かれています。

スタンド能力者が住む「杜王町」が
『ジョジョ』第4部の舞台

『ジョジョの奇妙な冒険』と『岸辺露伴は動かない』には、人間の勇気が試されるエピソードが数多く含まれています。

 まず、岸辺露伴が登場する『ジョジョ』シリーズ第4部の主人公・東方仗助の「勇気」のエピソードを確認してみましょう。高校一年生の仗助は、「仗=ジョウ」と「助=ジョ」という漢字の読み方から、周囲に「ジョジョ」と呼ばれています。彼は第二部の主人公ジョセフの「隠し子」です。ジョセフ・ジョースターという名の彼もまた、かつて「ジョジョ」と呼ばれていました。仗助は実父に会う機会もないまま、杜王町という町で、母と祖父に育てられ成長しました。

 長身で戦闘に適した体格、派手な制服、目立つ髪型。さらに仗助は警察官の祖父から正義感を、母親からは気の強さを受け継ぎ、後天的にではありますが、実父ジョセフと同じく「スタンド能力」を持っていました。