「このまま帰れるわけがない… 頼む彼女を許してやってくれ。彼女は純粋に幸せになりたかっただけだ… ぼくのために取材になれば良いと思ったのも…編集者として本心だったはずだ……」(岸辺露伴/『岸辺露伴は動かない』1巻、「富豪村」)

 神々の使いである執事の少年は「ひとつ得るか?ひとつ失うか?」と露伴に詰め寄り、一切の「寛容」を示そうとしません。露伴は神の意思に反してでも富豪村から生還しよう、と決意します。

 彼は、自分のスタンド能力『ヘブンズ・ドアー』を使って、神々の使いに強制的にマナー違反を犯させ、これによって女性編集者を「死の罰」から救います。

 アメリカの民話研究者スティス・トンプソンは、「神は天上から見おろして正しい者には恩恵を与え、神意に反逆する者にはきびしい裁きをくだす」としており、同時に「全能者の道はしばしば見え難いが、そのなすところの真意はいつも完全な正義を示している」と述べています。

 仮に富豪村の「山の神々」にもこの全能性を認めるならば、すでに富豪村に住んでいる11人の富豪は、規範やルールにのっとる美徳を持った「善なる人間」で、12人目の富豪になろうとした女性編集者はマナーすら守れない「つまらない人間」なのでしょうか。

 露伴は神々の判断に強く反対します。彼女の行為は命を奪われないといけないほどのものだったのか、神々が人間に対して真に望んでいることは「心を伴わない形式的な信仰」なのか、と。神々の使いに対する挑戦的な行為を通じて、露伴は神々に問いかけました。

 露伴と神々の使いとのやり取りには、形骸化するルールの滑稽さと、人間の願いや感情を聞き入れない神々の残酷さが表現されていたといえるでしょう。