カナダ中央銀行に続き欧州中央銀行(ECB)が、4年9カ月ぶりに利下げに踏み切った。しかし、足元の賃金、物価動向を見る限り、早期の追加利下げは難しそうだ。ECB自身が物価見通しを引き上げている。ユーロも一方的に値を下げることはないとみられる。(第一生命経済研究所 首席エコノミスト 田中 理)
前回理事会での示唆通り
利下げに踏み切った
欧州中央銀行(ECB)は6月の理事会で、約5年ぶりとなる利下げを決めた。政策金利を0.2 5%引き下げた。3月のスイス国立銀行(スイス中銀)、5月のリクスバンク(スウェーデン中銀)、前日のカナダ中銀に次ぐ先進国中銀の利下げとなる。
エネルギー価格の高騰で、一時は前年比で10%を超えたユーロ圏の消費者物価上昇率は、昨年10月以来、2%台半ばで推移している。変動が大きいエネルギーや食料などを除いたコア物価の前年比上昇率も、今年3月以降、2%台後半まで沈静化が進んできた。
これまでの利上げ効果の浸透でインフレ圧力が弱まり、中期的な物価安定の達成が視野に入ってきたことで、ECBは利下げを決断した。
ECBは利下げを見送った前回4月の理事会で、先行きの政策指針(フォワードガイダンス)を修正し、今度のデータ次第で金融引き締めの度合いを弱めることを示唆していた。
そのうえ、「6月にはより多くのことを知るだろう」とのラガルド総裁の暗示的な発言やタカ派メンバーによる利下げ容認発言もあり、今回の利下げ開始は市場参加者の間で広く予想されていた。
では、今後の利下げの見通しはどうなるのか。次ページ以降、物価、賃金動向などを踏まえ、検証していく。