大企業の社長や起業家、科学者など、いわゆる社会的に成功した方々にたくさん取材する機会を得てきました。その数は、3000人を超えています。誰もが知る有名な会社の社長も少なくなく、「こんな機会はない」と本来のインタビュー項目になかったこともよく聞かせてもらいました。インタビューで会話が少しこなれてきているところで、こんな質問を投げかけるのです。
「どうして、この会社に入られたのですか?」
数千人、数万人、中には数十万人の従業員を持つ会社の経営者、あるいは企業を渡り歩いて社長になった人となれば、仕事キャリアに成功した人、と言って過言ではないと思います。仕事選び、会社選びに成功した人、とも言えるでしょう。ところが、そんな人たちの「仕事選び、会社選び」は、なんともびっくりするものだったのです。
本記事は、『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』上阪 徹(ダイヤモンド社)より、抜粋してご紹介いたします。

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御立尚資さんの人生訓は「希望するけど予定しない」

 キャリアにおける偶然の大切さを、ずばり語っていた人もいました。36歳で入社したボストン コンサルティング グループで後に長く代表を務めた御立尚資(みたちたかし)さん。京都大学文学部を卒業後、最初のキャリアは日本航空でした。

 もともと就職するつもりはなかったそうです。できると思わなかった。魚谷さんも語っていましたが、当時は文学部は学部制限で受けられる会社が少なかったのです。

 大手レコード会社のディレクター試験に受かり内定をもらうのですが、悩みました。もっと違う道もあるのではないか、と思ったのです。それでいろんな話をしていたら、アメリカ文学を専攻しているのだから海外に興味があるだろう、と友人に教わるのです。

 そこから日本航空という選択肢が浮かんだ。会社員をやるのであれば、より大きいところ、外に行ける可能性が高いところに行ったほうが自分を広げられるのではないか、と思うようになっていったそうです。

 だから最初の就職は、正直に言うと成り行き、良く言うと運命、悪く言うとオプションがそれくらいしかなかった、と語っていました。いずれも、かなりの偶然の要素です。

 幹部候補生として入社したものの、仕事は現場から。まずは大阪の空港のカウンターで、国内線のチェックインや、空席待ちのハンドリングを担当します。2年目からはアシスタントパーサーとして、機内サービスにも従事しました。

 現場の仕事は、とても大きな意味があったそうです。例えば、飛行機が飛ばなくなったら、学歴もポジションも関係ない世界。そのときに正しい判断をした人間こそが正しいのです。目的に合致した正しい判断ができればいい。

 アシスタントパーサーも、やってみて肉体労働としての厳しさに気づきます。華やかに見えるCAの仕事ですが、実は時差もあってキツイ。そういう中でサービスをする。そして、乗客から学べることも大きかった。

 ファーストクラスでサービスをしたりすると、本物感のある人がわかったと語っていました。ひどい態度を取る人がいる一方、社会的に高い地位にあるのに、ものすごくちゃんと接する人もいる。

 御立さんは若いコンサルタントとタクシーに乗ったとき、運転手さんに偉そうな口をきく人間には怒ると言われていました。普段は声を荒らげることはないけれど、そういうときは真剣に怒るのだ、と。そんなことをしていたら、どこまで行っても半人前にしかなれないからです。

 後に、日本航空の経営企画で中期計画を担当。メキシコ駐在から33歳でハーバード大学MBAを取得したことが人生の転機になります。その後、30代半ばで同世代の友人たちが何人か続けて亡くなり、やりたいことがあるなら、やるべきではないかと思うようになります。そして、ボストン コンサルティング グループ行きを選択するのです。

 御立さんの人生訓は、希望するけれど予定しない、でした。こんなふうになったらいいなぁとぼんやり思っておくのはいいけれど、計画経済のように夢を描いて、毎日それを眺めて、こうやっていくんだ、と進めていく人生はどうかと思う、と。

 実際には偶然も手伝って、思いも寄らないチャンスが与えられることは、世の中にたくさんある。御立さんはそう語っていました。そういう偶然を否定してしまう人生というのは寂しいと思う、とも。

 御立さんも具体的にキャリアについて考えたことはなかったと語っていました。それよりも、自分に与えられているものを必死にやろうと思っていた。そうすると、違うものが開けるときが来るのだ、と。

 でも、何が来るのかは読めない。ただ、読めないところに本当に面白いものや、自分がやらなければいけないものがあるのです。こうも言っていました。人のポテンシャルは、自分が思っているよりも大きいケースが多い。それを信じられるかどうかなのだ、と。

※本記事は『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』上阪 徹(ダイヤモンド社)より、抜粋して構成したものです。