大企業の社長や起業家、科学者など、いわゆる社会的に成功した方々にたくさん取材する機会を得てきました。その数は、3000人を超えています。誰もが知る有名な会社の社長も少なくなく、「こんな機会はない」と本来のインタビュー項目になかったこともよく聞かせてもらいました。インタビューで会話が少しこなれてきているところで、こんな質問を投げかけるのです。
「どうして、この会社に入られたのですか?」
数千人、数万人、中には数十万人の従業員を持つ会社の経営者、あるいは企業を渡り歩いて社長になった人となれば、仕事キャリアに成功した人、と言って過言ではないと思います。仕事選び、会社選びに成功した人、とも言えるでしょう。ところが、そんな人たちの「仕事選び、会社選び」は、なんともびっくりするものだったのです。
本記事は、『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』上阪 徹(ダイヤモンド社)より、抜粋してご紹介いたします。

後の資生堂会長が、入社1年目でとった意外な行動とは?Photo: Adobe Stock

まず1年、目の前の仕事をやってみろと言われた魚谷雅彦さん

 心の持ちよう一つで、仕事が一変したという経験を話してくれたのは、資生堂の魚谷雅彦会長です。

 高校時代に英語の面白さに巡り合い、いずれは世界を飛び回るような国際的な仕事がしたいと思っていたそうです。その後、同志社大学文学部へ。総合商社は学部制限で受けられませんでしたが、英語で仕事がしたいなら、で浮かんだのが、留学制度がある会社。こうして出会ったのが、ライオンでした。

 しかし、当時は入社すると全員3年間、営業に配属されることになっていました。消費財メーカーですから、まずは営業現場を知らなければ、という発想があったのです。

 入社後、大阪の小さな営業所に配属になり、ライトバンに販促資材を積み、販売店に向かう日々が始まりました。仕事は販売店のお手伝いから。当時は今のようなPOSシステムなどありませんから、お店の床に座ってラベラーで値札を貼ったりする日々。

 国際的な活躍の舞台があると思って入社したのに、まったく違う世界です。会社案内のパンフレットに出ていた、海外の写真はなんだったのか。オレはこんなことをするために、この会社に入ったんじゃないぞ、と思うようになっていったそうです。

 自分の将来はどうなるのかと不安になり、夏くらいに知り合いの年配の人に相談してみようと思い立ちました。

 魚谷さんは、昔からすぐいろんな人に相談するタイプだったのだそうです。これは、若い人はぜひ真似てみるべきだと思います。

 最初は叱られると思っていました。新入社員のくせに、君は何を甘いこと言っているんだ、と。ところが違いました。こんな言葉を返されたのです。

「君の気持ちは理解できる。前向きな気持ちがある人間ほど悩むもの。問題意識を持つことはいいことだ。でも、まだ22歳。とにかく一年間ガムシャラに仕事をしてみたらどうか。一年経ってそれでも夢が実現できそうにないと思ったら、改めて決断すればいい

 この言葉で、すーっと心がラクになったそうです。ひとまず一年間、目の前の仕事を気合いを入れてやってみようじゃないか、と。

 不思議なもので、気持ちを前向きに持つと、何かが変わるものなのです。まずは「毎度!」と元気な挨拶から始めました。いきいきとやろうと。これだけで、取引先との関係が変わりました。

 元気なヤツだと何人もの社長が可愛がってくれた。こうなると、営業成績もグンと上がります。そうすると、仕事もどんどん面白くなっていきました。

 魚谷さんは入社直後から、留学したいと公言していました。週に2日、留学に備えて英会話学校に行っていました。授業は午後6時半から。残業する先輩もいて、生意気に思われていたかもしれない。ところが、だんだんまわりの人も理解し始めてくれます。

「おい魚谷、今日は学校じゃないか。時間来たぞ、早く行け」

 ありがたいことに、みんなが応援してくれるようになったのです。そしてコロンビア大学でMBAを取得。後に外資系畑に転じ、日本コカ・コーラ社長などを経て、資生堂の社長に就任するのです。

※本記事は『彼らが成功する前に大切にしていたこと 幸運を引き寄せる働き方』上阪 徹(ダイヤモンド社)より、抜粋して構成したものです。