カメラを構えていたディレクターさんは、動こうとしません。目が、「海外まで来ていて、予算がかかってるんでアリに突撃しましょう」と物語っていました。確かにその通りです。

「その考え……。アリッちゃアリですね。」

 強がるのが精一杯でした。

 僕は頭を巣につけてツムギアリの巣の作り方を長々と語るというボケをしました。

 数秒後、背中が燃えるように熱くなりました。

「アチいいいいいいい!!!」

 タンクトップを脱ぎ捨てると背中には何十匹ものツムギアリが噛みついていたのです。ディレクターの目は、「できる限り長く撮らせてほしい!! あんまり動かないでください!!」と物語っていました。腕も熱いです。何匹ものツムギアリがいました。中には強く噛みすぎてアゴが深く入ってしまい、離れたいのに離れられないっぽいアリもいました。なんだコイツと思いました。

あばれる君が芸人として覚醒した超過酷ロケ「人は猛牛と闘わなければならないときがある」写真:あばれる君提供

 我慢の限界を超えアリを手で振り払うと、ディレクターさんは笑いながら「もういっちょいきましょう」という目をしていました。そのとき、僕も芸人として役に立てている喜びが溢れていました!

 自分の笑いはこれだ!!

 気づけば、顔面から巣に向かっている自分がいました。海に美しい「アリエル」がいるのなら、僕はジャングルの「蟻れる」。「蟻れる君」です。タンクトップとズボンの中に隠れたたくさんのアリたちが30秒おきぐらいに時間差で噛んでくるという恐怖のズボンが完成しました。芸人としての達成感がアリの噛み跡から満ち溢れました。

 帰りの飛行機は安堵感と共に泥のように眠りました。