すずき・たかし
1935年生まれ。59年一橋大学商学部卒、日本生命入社。85年エステーに出向。企画部長、営業本部首都圏営業統括部長などを経て、経営が不振に陥った98年に社長就任。07年に会長に就任したが、リーマンショック後の危機を打開するために、09年社長に復帰。12年から再び会長に。

エステーは、「消臭力(しょうしゅうりき)」など、家庭用の芳香剤や防虫剤のトップメーカーである。いよいよ「独裁経営」を標榜して、同社を引っ張る鈴木喬会長ロングインタビューの最終回。第1回目はヒット商品を生む発想法、第2回目は開発のポリシーを中心に訊いた。今回はいかに経営者を育てるかを軸にインタビューを進める。会長は経営は総合格闘技、だからこそ勉強より勝負事と説く。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集長 原英次郎)

モノなんかつくったら
会社は潰れちゃう

――著書の中で、エステーは「メーカーではない、感動創造企業だ」と述べておられますね。そのココロは?

 15年前に社長になった時はですね、うちは「ものづくり、ものづくり」していて、江戸時代の士農工商じゃないけども、製造と技術がいちばんえらくて、「俺達が作ったものをみんな売って来い」と。だから売れやせんのです。それで、工場のラインが余っていたんですよ。全部専用ラインで、何億円もかけたオートメーションでしょ。えらいことになっていたんです。

「これはだめだ」と5工場から3工場に一挙に集約して「こういうオートマチックなラインがあるからあかんのや」とて言って、みんな捨てちゃったんです。それでもっと小回りがきき、ニーズに応えられるものを作れるラインに全部変えちゃったんですよ。

 その当時は全員が「モノづくりに徹する」と言っていたので、「お前、今みんなはモノなんかな欲しくて買ってるんじゃねーよ、モノなんか溢れてるんだよ。モノなんかつくってら、会社潰れちゃうぜ」って言ってね。「だから何か考えなきゃ、しょうがない」っていうことで、「俺のところで作ってるモノは、あれはモノじゃないんだよ。ワクワク感とかドキドキ感っていうものを、容器の中に詰めて売ってるんだよ。だからお前ら心して作ってくれ」って、そんな感じだったんですよ。