信頼した人とは余計な駆け引きをするな

 こうして西井社長と私は「異質」の経験と考え方を持った人間としてペアを組むことになりました。

 実は、「異質」の人とペアを組む上で大切なことが2つあります。

 1つめは「お互いをリスペクトし合うこと」です。私と西井社長の場合、価値観やお互いにやってきたことは違いましたが、相手のやってきたことや考え方を尊重し、リスペクトすることができました。

 そのため、互いに議論を交わすときにはどんなに言いづらいことや言われたくないことを言い合ってもそれが恨みに繋がらず、前向きに問題解決する健全な関係を築くことができました。仮に、私と西井社長が相手をリスペクトできない関係だったら、味の素の経営は完全に瓦解していたでしょう。

 つまり、大事なことは「異質の人」と仕事をする際は、「意見は違えど、この人にだったらなにを言われても、お互いをリスペクトして議論し合える」関係を築きましょう。

 ちなみに、いい関係を築くコツは自分から先に相手をリスペクトすることです。よくある間違いが、「リスペクトされたから自分も返す」というものですが、こういったときに大事なのは自分から先にリスペクトを示すことです。相手の出方をうかがってはいけません。

 2つめは、「異質ではあるけれど、目指している夢は同じ」であることです。

 味の素の場合、西井社長が社長になったことに満足して自分の任期を穏便に済ませようと考える人物だったら、経営者として「目指している夢」が異なり、そもそも議論にもならなかったでしょう。

 その意味では、私も西井社長も本気で味の素を変えようと同じ夢を見ていたことは非常に大きなことでした。考え方は違いましたが、夢という点においては、深いレベルでは繋がっている感覚があったのです。