緊張感が増している韓国と北朝鮮の南北関係。ここに来て、さらに不穏な事態が起こっている。5月末から6月にかけて、「汚物風船」なるものが北朝鮮から韓国に放たれたのだ。文字通り、ゴミや糞尿が中に入った大きなバルーンである。北朝鮮側はこれを「(韓国への)誠意ある贈り物」と声明を発表、韓国側も挑発的な態度を強めている。一見すると幼稚な行為に思えるが、背後に潜む真の意図とは? この奇妙な挑発は、日本にも無関係ではない。(韓国在住ライター 田中美蘭)
ソウルを含む、韓国の各地に「汚物風船」が飛んできた
日韓関係が政権交代のたびに変動するように、南北関係もまた政権交代のたびに変動する。韓国の文在寅(ムン・ジェイン)前大統領は北朝鮮寄りの親北政権だったが、尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏が大統領に就任してからは、北朝鮮への強硬姿勢に転じた。これに反発した北朝鮮は、韓国に揺さぶりをかけるような挑発行為を繰り返している。その一つが「汚物風船」だ。
汚物風船の中身は、日常生活で排出される一般ゴミが大部分で、その他廃電線や、廃電池、肥料、家畜のふんなど。北朝鮮側は風船を2回飛ばしたと声明を出しているが、韓国軍は「今年に入って5回目」と6月24日に発表している。風船は1回目に3000個、2回目は1400個、分かっているだけで計4400個は飛ばされているようだ。SNSの投稿やマスコミの報道で公開された写真を見ると、“風船”といってもかなり大きく、気象観測用バルーンくらいの大きさがある。
風船の一部は、ソウルとその周辺の京畿道(キョンギド)をはじめ、東部の江原道(カンウォンド)や中部の慶尚北道(キョンサンブクド)にまで到達したという。飛来したものの中には、日本大使館が入居する建物の屋上や、大統領府の近くなどソウル中心部に落下したものもあった。さらに、6月9日に2度目の「汚物風船」が飛ばされた際には、風向きなどの関係で釜山方面までに達する可能性もあると、注意喚起を促す災害メールが発信されるなど、韓国全土で緊張が高まった。この騒ぎにより、韓国軍は、北朝鮮との軍事境界線でこれまで停止していた拡声器による北朝鮮への挑発放送を再開させる対抗措置に踏み切った。
汚物風船が飛来した各地では、回収のために軍が出動、安全を確認しながら撤去作業を行った。また、これにより軍の兵務が週末でも平日と同様の体制となり、警戒レベルが引き上げられるという影響も出ている。