2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売に。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について解説していく。

【起業参謀の視点】今後、3~5年の市場成長率を予測できているか?Photo: Adobe Stock

今後の市場成長率を考える

未来に生き、欠けているものを作れ
 ―ポール・ブッフハイト Gmailの開発者

 出典:https://www.ycombinator.com/library/8z-how-to-get-startup-ideas

 今後の市場成長率を考えることは、非常に重要な視点だ。現状の市場規模は小さいかもしれないが、今後伸びる市場に目をつけることだ。

 これは何度か解説しているようにPFMF(プロダクトフューチャーマーケットフィット)という、今の市場ではなく、今後伸びていく市場に対して最適化していく視点である。

 たとえば、現在はXR11)やSpatial Computing12)や自動運転が注目されている。それぞれ、2030年頃に非常に市場が大きくなると期待されている。

 さらに新しい技術であるために、現状、支配的なプレーヤーがいない市場でもある(MetaのMetaQuestがVRヘッドセット市場のシェアを握っているが、まだ支配的とは言い難い)。今のところ、市場はそこまで大きくないが、これから伸びてくると見込める。

 起業参謀としては、どのあたりの市場が今後伸びるのかという目利きができ、示唆が出せることは非常に大事な能力である。そのためには以前に解説したSTEEP分析が役立つ。

2030年、MaaSは
市場規模が現在の10倍に

 たとえば、私は現在MaaS(マース:Mobility as a Service)というあらゆる公共交通機関をITを用いて結びつけて移動の効率化を図る事業の支援をしている。

 このMaaSは、2030年に現在の市場規模の10倍になると言われている(下図)。

 いろいろな統計資料に裏打ちされているが、少なくとも非常に大きな規模になることは確実だ。現在は黎明期でまだまだ小さいが、今後伸びていく市場を見越して賭けていくような発想が大事である。

 11)XR:Extended Reality/Cross Realityの略で、現実の物理空間と仮想空間を融合させて、現実では知覚できない新たな体験を創造する技術

 12)Spatial Computing:スペーシャル・コンピューティング=空間コンピューティング。機械、人、モノの動きと、その環境をデジタル化し、様々な作用と相互作用を実現して最適化する技術

(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。