2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、ベストセラー『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売に。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について解説していく。
スタートアップが世界を牽引してきた
私は、スタートアップと新規事業こそが、次の世界を作るという信念を持っている。事実、1990年代半ばから2000年代の前半にかけて、スタートアップが世界を牽引してきた。
大きくなりすぎて、批判も同時にされることも増えたビッグテック企業のGAFAM(ガーファム)だが、これらの現在の時価総額は1290兆円(2023年11月現在)を超える。
ただ、これら世界有数のエンタープライズになった企業も、最初はスタートアップから始まっている。大学寮の一室(Facebook=現Meta)やガレージ(Apple)からだったり、間借りしている個人オフィス(Amazon/Microsoft)から始まっている。こうした企業が社会に大きなインパクトを与え、世界を変えてきたのだ。
サクセスストーリーというと、ゼロイチで立ち上げた創業経営者にスポットライトが当たりがちだ。しかし、そのかたわらには優れた「参謀」がいて、壮大なビジョンを描いた起業家を支えていたことを見逃してはいけない。
優れた起業家の横には、「優れた参謀」がいる
たとえば、Googleの共同創業者であるラリー・ペイジやセルゲイ・ブリンらは元々研究者だった。そこへ2001年に、Novell(ノベル)という大会社のCEOを務めていたエリック・シュミットが参画し、起業参謀として大きな役割を担った。これが、今も続くGoogleの繁栄を支える基盤となるビジネスモデルの構築につながった。
また、Meta(旧Facebook)のケースでいうと、創業者であり現在の社長でもあるマーク・ザッカーバーグは壮大なビジョンを描くタイプではあるものの、金儲けに対しては無頓着だった。そこでGoogleの広告部門のトップをしていたシェリル・サンドバーグが参画し(2022年退任)、戦略を考える役割を担った。
Microsoftも、創業者であるビル・ゲイツは優れたビジネスセンスを持っているが、元来はプログラマーで内向的な性格だった。そこを、スティーブ・バルマーのような、ビジネススキルに卓越した参謀が支えて、現在の企業を作り上げた(スティーブ・バルマーはゲイツが初めて採用したビジネスマネジャーだった)。
一代でホンダを築き上げた本田宗一郎のかたわらには、藤沢武夫がおり、研究者気質の本田を支えた。1959年のホンダ初の海外現地法人アメリカン・ホンダモーターの設立、二輪車販売開始時における自前の販売網の構築などを担った。
本田宗一郎は作る人として、藤沢武夫は売る人として、どちらも相手の不足しているものを持っており、お互いを補い合うようにタッグを組むに至った。
すべからく、優れた起業家の横には、「優れた参謀」がいる。
私はこれまで数多くのスタートアップを見てきたが、起業家は非常に優秀だが、ナンバー2、ナンバー3になるとガクッと落ちてしまうケースが散見された。
そのスタートアップが成功できるかどうかは、起業家と同様に、キーマンである参謀の存在が大きい。
(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。