2022年11月、内閣主導で「スタートアップ育成5か年計画」が発表された。2027年をめどにスタートアップに対する投資額を10兆円に増やし、将来的にはスタートアップの数を現在の10倍にしようという野心的な計画だ。新たな産業をスタートアップが作っていくことへの期待が感じられる。このようにスタートアップへの注目が高まる中、ベストセラー『起業の科学』『起業大全』の著者・田所雅之氏の最新刊『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』が発売に。優れたスタートアップには、優れた起業家に加えて、それを脇で支える参謀人材(起業参謀)の存在が光っている。本連載では、スタートアップ成長のキーマンと言える起業参謀に必要な「マインド・思考・スキル・フレームワーク」について解説していく。

「どこで戦うかを決めること」が戦略、「どう勝つのかを検討すること」が戦術Photo: Adobe Stock

「戦略」と「戦術」の違い

戦略」とは、大きな方向性のことで、戦って無理がないところを見極めていくということだ。たとえば、「第二次世界大戦でなぜ日本が負けたのか」については、様々な議論がなされているが、端的にいうならば、戦略性の欠如と言われている。

 日本は太平洋の島々を領土化していき大東亜共栄圏を築いたが、途中からアメリカが連合国軍に加わり、その島々を解放していく。その際にアメリカ軍が重点を置いたのは、兵站の補給をできるような重要な主たるミッドウェーを押さえたことである。これは、先述したオセロの四隅を取りにいく戦略だ。アメリカが戦略的にそこにリソースを集中させたことで、結果的に日本軍を追い詰めていったのだ。

「戦略」とは、どこで戦うのかを決めた後に、どこに兵力(リソース)を集中させるのかを判断し、そして、結果として「戦わない場所」をも決めていくということである。

 ここで「戦術の質」について触れよう。「戦略」は「どこで戦うのか」を見極めることであると説明した。「戦術」は「その選んだ戦場/セグメントでどう勝つのか」を見極めることである。

 改めて、「戦略」と「戦術」の違いを以下にまとめる。

戦略
・大きな方向性
・どこで戦うか?
・どうリソースを配分して戦うか?
・いかに戦わないか?

戦術
・個別の施策
・どうやって戦うか?
・所与のリソースでどう戦うか?
・いかに勝つか?

 ジェフ・ベゾスがもし、書籍ではなく「中古車」の販売から始めていたら、おそらく今のAmazonの成功はなかっただろう(中古車は、実際にその車の状態を示す画像や関連する詳細情報をカバーしないとユーザーは購買に至らないケースが多い)。

 中古車をネットで売るために、様々な戦術(たとえば、取引手数料を安くする、紹介者に対してインセンティブを用意する)を駆使したとしても、1994年だとあまりにも時期が早すぎて、誰も買わなかったと推測できる(少なくとも書籍販売で達成したほどの成功は達成できなかっただろう)。

「コンセプト」→「戦略」→「戦術」
の順番で磨き込んでいく

 このように戦略である「どこで戦うのか(=Where)」といったことを間違えてしまったら、いくら戦術「どうやって戦うのか(=How)」でカバーしようとしても、リカバリーすることはできない。

「コンセプト」→「戦略」→「戦術」の順番で磨き込んでいくことを間違えてはいけない。

 施策を考えたり、ソリューションを出すことは、目に見えやすい成果が上がるので、起業家はどうしてもコンセプト/戦略を勘案することなく、“とりあえず施策の実行”“ソリューションの検証”から始めがちになるので注意したい。

(※本稿は『「起業参謀」の戦略書ーースタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップなど3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動。帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップの評価を行う。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。2017年スタートアップ支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役CEOに就任。2017年、それまでの経験を生かして作成したスライド集『Startup Science2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。2022年よりブルー・マーリン・パートナーズの社外取締役を務める。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』(ダイヤモンド社)、『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)、『超入門 ストーリーでわかる「起業の科学」』(朝日新聞出版)などがある。