劣等感の根源だった、どうしようもなくまっすぐな黒髪が、実は私の一番の魅力だった

「いいわね、あんたは。一度でいいから、そんなサラサラな髪の毛になってみたいわ」

 あの気の強いファニーがため息をつきながら、このどうにもならないペシャンコ髪が羨ましいと言うのです。ファニーだけではありません。上司のジュリエットでさえ、ある朝、いつものフサフサの金髪ではなく、まっすぐのサラサラ髪で現れました。突然のことで言葉を失っていると、彼女は、

「リサージュしてきたの!」

 と得意そうです。聞くとリサージュとは、いわゆるストレートパーマのこと。

「私のは3ヵ月しか持たないけど、その間だけでもジュンみたいなサラサラ・ヘアよ!」

 非の打ち所がない私の上司でさえ、嬉しそうにそう言うのです。

 私のペシャンコ髪がパリジェンヌの憧れの的だったというのですから、唖然としてしまいました。考えもしなかったことですが、劣等感の根源だった、どうしようもなくまっすぐな黒髪が、実は私の一番の魅力だったのです。

フサフサ髪とサラサラ髪、比べてみても始まらないものね

「やっぱりこれが一番私らしいわね」

 そう言いながらジュリエットは3ヵ月を待たずに2週間後、いつものフサフサ髪に戻っていました。ほっとした私が、

「やっぱりそっちの方がお似合いです」

 と言うと、彼女は私のまっすぐな髪の毛を手に取りながらこぼしました。

「フサフサ髪とサラサラ髪、比べてみても始まらないものね」

 その通りです。比べだしたらキリがありません。フサフサ髪とサラサラ髪。大きな目と小さい目。高い鼻と低い鼻。丸い顔と細い顔。世の中に同じ顔、同じ髪は一つとしてありません。人はそれぞれ。だから面白いのです。

 人と比べることをやめ、自分と向き合ってみると、小さな発見がたくさんあります。そしてその小さな発見が積み重なると、自分に自信が出てきます。厄介な劣等感というものが薄れてくるのです。

 クルクルまとめて鉛筆で挿すだけのシニヨンは未だにできませんが、サラサラな黒髪は今では私のチャームポイントです。

※本稿は『パリジェンヌはすっぴんがお好き』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。