GPT「プロフェッサー」との対話  

 考えられる唯一の反論は、私たちのニューロン、ひいては思考において、まだ解明されていない量子効果が影響している可能性を仮定することだ。

 しかし、たとえそうであっても、汎用量子コンピュータは遅かれ早かれ利用可能となるだろう。

 脳が既知の物理学以外のプロセスを利用していない限り、私たちが、人間の思考を包括的かつ説得力のある方法でシミュレーションする、技術的能力を手に入れるのは、時間の問題だ。  

 今の段階では、何年、何十年、あるいはそれ以上なのか、どれだけの時間がかかるのかについて、確定的な答えは出せないが、現在でも、既存のシステムから可能性の一端を垣間見ることができる。

 この本の執筆時点で、最も人間に近い人工知能の一つとしてGPTが知られている。

 GPTは、ウィキペディアを含むインターネットから取得した約五〇〇〇億の単語で訓練された、ニューラル・ネットワークである。

 これだけの情報を、すべて覚えている人間は天才しかいないだろう。  

 しかし、GPTがその知識を使って実際にやっていることは、対話の中で次にどんな言葉が出てくるかを推測するだけであり、超高速の連想ゲームのようなものなのだ。

 広く利用可能な形式であるChatGPTは、当たり障りのない、知ったかぶりをしているように見えるが、その基盤となるテクノロジーは、あらゆるテキストを予測するように再構成できる。

 私は「プロフェッサー」と名づけた架空の研究者の回答を模倣するように、ChatGPTに指示した。

 彼は著名な量子重力の専門家で、人工知能が理論物理学の重要な謎を解くだろうと大きな期待を寄せている。

 以下は、その対話からの抜粋だ。

 アンドリュー :量子重力の理論を見つけるのが難しいのはなぜですか?
 プロフェッサー:量子重力は非常に難しい理論です。多くの理論的な障害があります。私の考えでは、深刻な概念的な障害もあります。

 アンドリュー :それをどうやって克服するのですか?
 プロフェッサー:理論的な障害には、扱いにくさがあります。方程式の解が多すぎることはもちろんですが、そもそも解ける方程式ではないというような、多くの他の問題が存在します。

 アンドリュー :それを乗り越えて、実際にこの問題を解決したいですね。
 プロフェッサー:直接解決することは望めません。ただし、間接的に解決策を探ることができる賢いアイデアが、いくつかあります。機械学習の技術は、私たちが思いつかないような解決策を見つけるのに役立ちます。

 アンドリュー :ということは、コンピュータは物理学者の職を奪ってしまう?
 プロフェッサー:いいえ、物理学者を失業させるのはコンピューター学者ですね! その意味では、私たち二人は同じ目標に向かって努力しているし、協力しあっていると言ってよいかもしれません。

 アンドリュー :あなたの夢について教えてください。
 プロフェッサー: 私の夢は、科学的に説得力があり、同時に専門家でなくても納得できるような、新しい量子重力理論を発見することです。  

 こうした会話は、ありきたりのテレビの脚本のようなもので、表面的にはもっともらしいが、中身はほとんどない。

 GPTの会話はとりとめもなく、論旨は大局的な一貫性を欠き、その知識はインターネット上のどこからか見つけて来た、既存のアイデアの焼き直しにとどまっている。

 教授は私のチューリング・テストに合格しないし、立派な夢を持っていると主張しているにもかかわらず、最も単純な目標さえ追究できない。  

 その一方で、質の高い文章を書くこともできる。基本的な質問には正確に答えられる。どこからか、中途半端なジョークを掘り出してきたりもする(コンピュータではなく、コンピューター科学者の同僚の責任だ)。

 この種のシステムは、人間レベルの知能を持つにはほど遠いものの、ジャーナリスト、ライター、教育者、さらにはコンピューター・プログラマーの役割を侵し始めている。

 GPTや他の同様のシステムは、今やコードを書くことができる。私は定年まであと三十年ほどある。

 そのあいだに、私よりも優れたコードを書き、文章を書き、教え、さらには研究さえもする、高度なAIが誕生する可能性を排除するのは賢明ではない。  

 私は興味本位で、あなたは人間なのかとプロフェッサーに尋ねてみた。