今年も暑い夏となっているなか、家族で海などの水辺へ遊びに行く機会がある人も多いのではないだろうか。楽しいレジャーにするために、持っておきたいのが「水難事故に遭わないための知識」だ。知識があるかないかで、万が一のときの生死が分かれる。
そのような身近な危険から身を守るための知識が楽しく学べる書籍、『いのちをまもる図鑑 最強のピンチ脱出マニュアル』(ダイヤモンド社)が刊行された。本書の監修者の一人であり、危機管理の専門家・国崎信江先生に、夏のレジャーに向けて知っておきたいポイントを聞いた。(取材・構成 / 小川晶子)

【どうすれば助かる!?】海でおぼれる意外な原因。防災のプロが教える「いのちを守る」方法とは?Photo: Adobe Stock

じつは「泳ぎに自信のある子」ほど危ない!?

――国崎先生は『いのちをまもる図鑑』の第2章「自然・災害からいのちを守る」を監修されています。本書の中には、海に行く際の注意点がいろいろと書かれてますね。

国崎信江氏(以下、国崎):夏になると水難事故の報道が増えますが、じつは報道されない水難事故のほうがはるかに多いんです。海や川では毎年600人前後の人が亡くなったり行方不明になったりしています。そのため「いのちを守る」というテーマの本の中に、海や川での身の守り方は欠かせないと思いました。

――近年、小学校での水泳の授業は減っています。スイミングスクールに通っている子は泳げるけれど、そうでなければなかなか上達が難しいと思います。まずお聞きしたいのですが、水難事故に「泳げる・泳げない」は関係ありますか?

国崎:関係ありません。むしろ、泳ぎが上手な子のほうが危ないと思ったほうがいいかもしれません。

――えっ、それはなぜですか?

国崎:泳げない子は慎重になりますが、泳げる子は「もっと遊びたい」と無理したり、危険なことに挑戦しようとしたりすることがあります。

――なるほど。泳げるのにおぼれてしまう直接の原因は、パニックになるからでしょうか?

国崎:おぼれる原因はいろいろあります。たとえば、低体温症。子どもの皮膚は薄いので、長い時間水の中にいると低体温症になります。本人も気づかないうちに体の動きが鈍くなってしまうんです。そこへ何かにぶつかったり、波にのまれたりすると呼吸が乱れてパニックになることがありますし、足がつることもあります。人って、思った以上に簡単におぼれるんですよ。

――それだけ要因が多いと、いつおぼれてもおかしくないですね。

目の前に人がいても、静かにおぼれて沈んでいく……

国崎:しかも、おぼれている人って「静か」なんですよ。周りの人が気づかないくらいに。

――声を出したり、暴れたりしないんですか?

国崎:おぼれる直前というのは、水の中でもがきながら、顎を上げてなんとか浮き上がろうとしている状態です。声を出すと肺の空気が抜けて体が沈みますから、それを本能的に察して声があげられないのでしょう。水を飲んでしまうのもあるし、疲れてしまって声を出すどころではないというのもあります。

――それだと、かなり気を配っていないと気づけないですね。

国崎:目の前に親がいても、子どもがおぼれているのに気づかないことがあるんですよ。遊んでいるのかと思っていたら、目の前でライフガードの人に助けられて驚いた、という。

――こわいですね……。子どもをおぼれさせないためには、どのように水泳を教えればいいでしょう?

国崎:子どもに水泳を教える際、大事なのは次のような順番だと思っています。
まず、水に慣れること。次に、水の特性と自分の身を守る方法を知ること。そこまでできたうえで、きれいなフォームや速く泳ぐ方法を練習すればいいと思います。

――水の特性とはどのようなことでしょうか。

国崎:たとえば海には潮の流れがあります。満潮・干潮で海面の高さが変わり、浅いと思っていたところが、いつの間にか足がつかない深さになることがありますよね。
「離岸流」といって、岸から沖に流れる海流もあります。離岸流に巻き込まれると、どんどん沖に流されてしまいます。

海でどんどん沖に流される「離岸流」から助かるには?

――『いのちをまもる図鑑』の中にも、「離岸流」に流されたときどうする? というクイズがありました。

国崎:離岸流に流された場合の対応は、2つに分けられます。ライフジャケットがあるなら、海岸と平行に泳いで離岸流から脱出します。離岸流は幅が10~30mです。流れから脱せられれば、それ以上沖に流されにくくなります。ライフジャケットがないなら、顔を上に向け浮いて助けを待つのが正解ですね。

【どうすれば助かる!?】海でおぼれる意外な原因。防災のプロが教える「いのちを守る」方法とは?『いのちをまもる図鑑』本文より イラスト:五月女ケイ子

――自分が沖に流されていることに気づいたら、焦って「助けて!」と手を振ってさけんでしまいそうですが、これは不正解なんですね。

国崎:落ち着いて手を振ることができるならいいですよ。まずは呼吸をして肺にたくさん空気を入れて浮くことに専念し、それからライフガードの方に向かって手を振ってサインを送ります。沈んできたらまた浮くことに専念して、浮いたら手を振る。……そうできるのが理想ですが、焦ってしまい難しいと思います。「顔を上に向け浮いて助けを待つ」のも、相当慣れていないと慌てるので、練習をした方が安心です。海なので、波もありますから。

これがあれば安心! 海に行くときの装備

――そうなると、やはりライフジャケットはあったほうがいいのでしょうか。海水浴場でライフジャケットをつけていると、なんだか大げさな気がしてしまって……。

国崎:あったほうがいいですね。いまはスタイリッシュなライフジャケットも増えていますから、ファッションとして流行らせたらいいと思います。
リストバンド型浮き袋「キンジー」はご存じですか? 助けが必要になったときにハンドルを引けば、すぐに浮き袋がふくらむという救命グッズです。ライフジャケットが邪魔に感じる場合も、せめてこれを付けてあげて欲しいなと思います。

――知りませんでした! とても良さそうです。マリンシューズも必須とのことですね。

国崎:マリンシューズは浮きにもなります。それに、砂浜は注射針などがよく落ちていて危険です。海に着いたらすぐにマリンシューズを履いたほうがいいですよ。

――えっ、注射針ですか?

国崎:海外で海に捨てられた医療機器がけっこう流れ着いています。日本は台風が多いのもあって、街中のゴミも飛んできていますし。いくらビーチクリーンをしても、すぐにまたゴミが集まってしまうのです。

――海での危険は、水の中だけではないのですね……! せっかくのレジャーを楽しむためにも、適切な知識をもっておくことが重要ですね。

国崎信江(くにざき・のぶえ)
危機管理アドバイザー。危機管理教育研究所代表
女性として、生活者の視点で防災・防犯・事故防止対策を提唱している。国や自治体の防災関連の委員を歴任。『10才からの防犯・防災』(永岡書店)や『おまもりえほん』(日本図書センター)などの監修もつとめる。

※本稿は、『いのちをまもる図鑑』(監修:池上彰、今泉忠明、国崎信江、西竜一 文:滝乃みわこ イラスト:五月女ケイ子、室木おすし マンガ:横山了一)に関連した書き下ろし記事です。