今年も夏休みシーズンがやってきた。山でハイキング、河原でバーベキュー、海ではシュノーケリングと、この時期ならではのアクティビティに胸が躍るが、その楽しさの陰には、命をおびやかす危険な生き物が必ず潜んでいる。いざというとき、どう行動すれば、命を守れるのだろうか?
そんな疑問にこたえる本『いのちをまもる図鑑 最強のピンチ脱出マニュアル』(ダイヤモンド社)が発刊された。危険生物から身を守る方法から、ケガの応急手当てまで。あらゆる危険から身を守る方法を記した本書の発売を記念して、動物学者の今泉忠明先生へのインタビューを行った。
今回の記事のテーマは「自然の中で子どもが得られる学び」について。これまでの記事では今泉先生に「知っておくだけで生存率が上がるサバイバル術」を聞いてきた。しかし、子どもを危険に触れさせないことは「逆にリスキー」だとも今泉先生は語る。それは一体、どういうことなのだろうか?(取材・構成/澤田憲)

子どもから危ない遊びを取り上げると、逆に「命にかかわる」理由【じゃあ、どうすれば?】Photo: Adobe Stock

金にならない」「役に立たない」ことを話すのが、いちばん楽しい

――今泉先生は、長年、山や森で暮らす動物たちのフィールドワークに力を注いでこられましたよね。

今泉忠明(以下、今泉):はい。足跡や糞などの痕跡を調べて、そこで暮らす動物たちの行動を調べています。

――そもそも、なぜ在野で研究されているのでしょう?

今泉:楽しいからですよ。お金にはならないし、何かの役に立つからやっているわけでもないです。いつまでに何をやれっていう義務もないから、在野のほうが気楽で自由ですしね。

――ただ、義務も対価もないのに「楽しいから」という理由だけで、何十年も調査を続けられるのは、やはり特別なことだとも思うんです。

今泉:自分ひとりだけだったら、そうかもね。ボクは富士山麓の樹海によく調査に行くんだけど、あそこには動物だけじゃなくて、植物とか岩石とか昆虫とかの専門家が自然と集まってくるんです。そこでお互いに、いま興味があることを話すんですよ。そういうのが面白いんだよね。皆、自分が好きなことだけ話すから、楽しくないわけがない(笑)。

「何かのため」に生き続ける人生は、しんどくなる

――そこまで好きになれることがあるというのは、うらやましくもあります。

今泉:あのね、今の社会は「何かのために」っていうのが多過ぎるんですよ。いい学校に入るために、いい会社に入るために、老後のためにって。それをずーっと続けていくと、やりたいことが何にもなくなっちゃう。だから、自然の中で自分が好きなことを見つけたほうが楽しいよって、いつも言ってるんだ。お金もかからないし、退職しても続けられるしさ。

――今泉先生が、いま楽しみにされていることは、例えばどんなことですか?

今泉:この前Amazonで、女性がマニキュアにつける粉を買いましたよ。ラーメンじゃなくて、ラメか。ゴールドとかピンクとか、いろんな色があってね。さすがにピンクはどうだろうかと思って、シルバーにしました。

――え? 何の話です?

今泉:森の調査で、動物の足跡を見つけたら、そこに石膏を流し込んで型を取るんです。それで今度、石膏を流す前にラメを足跡のあるくぼみに薄っすらと入れてみようと思って。そうするとキレイに足跡が取れるかなぁって。

――キラッキラの足跡になる(笑)。なるほど、意味とかじゃなくて、そういう遊び心が大事なんですね。

今泉:石膏って地面の足跡の表面に粉をまかないと、地面にくっついちゃうのよ。だから、粒子が細かいラメを試してみようと思ったんです。

――(めちゃくちゃ意味あったわ)

今泉:地面に残った足跡って、すごく微かなこともあるから。そうすれば、薄っすらとついている足跡も型が取れるだろうなって考えてる。そういう足跡の取り方とか、糞の調べ方とかを後に続く人に伝えられるように、いまビデオに撮ってるんですよ。少なくとも子どもたちには、そういう文化を残してあげたいよね。

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