価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

アイデアが得意な人たちに共通する、習慣とはPhoto: Adobe Stock

ひとつのインプットから、多くのことを学ぶ

 インサイト発見力を向上させるために、もうひとつ、私が行っていることをご紹介します。

 それは、ひとつのインプットから、数珠つなぎのようにして探求を深めていく、というものです。

 これは、私が最初からできていたわけではありません。強いインサイトの発見が上手な人たちの真似をしてきました。彼らに「どのようにしたら、そういう発想ができるんですか」と聞いたところ、その人たちが意識している、していないにかかわらず共通して行っていることがあったからです。

 それは「ひとつのインプットから、人より多くのことを学んでいる」ということです。どういうことでしょうか。私が、彼らの学び方を取り入れ実践している例を通じて説明します。

 たとえば、インプットは、次のような広告コピーとしましょう。

「一冊、同じ本読んでいれば会話することができると思うの。」

 これは、1980年に新潮社の新潮文庫フェアのためにつくられたものです。仲畑貴志さんというコピーライターの巨匠が書かれたもので、随分昔のものですが、知っている方も多いでしょう。

 このコピーから、学べるものは何でしょうか。

 いいインサイトの発見だな、と思って心に刻む。というのは、第1段階の学びでしょう。

 そこから、もう少し広げて、「これは本だけではなく、違うものにも応用できるんじゃないか」と考えるのが第2段階の学びと言えます。たとえば、同じスポーツをしていた、同じ音楽をよく聴いていた、同じ食べ物が好き、同じゲームが好き、同じ天気が好きなど、いろいろなものに応用できそうです。

 さらに、「広げてみると、これは経験や好きというものではなく、逆もあるのでは」と考えるのが第3段階の学びです。あの上司のこういうところが嫌い、レストランでこうされるのが嫌など、嫌いなものが一緒ということでも、人と人の距離感が縮まった経験は、多くの人にあるでしょう。

 このように、数珠つなぎで思考を広げていきます。

 私は、もう一段階進めて、「このようなことについてすでに研究されているのではないか」と論文などを調べることをしています。ここでは、4段階目の学びになります。

 この例で言うと、フリッツ・ハイダーという心理学者が、1958年に発表した認知的均衡理論(バランス理論)というものに行き着きました。詳しい説明は省きますが、「好きな相手とは、同じものが好き、もしくは、同じものが嫌いに。嫌いな相手とは、好きなものや嫌いなものが反対であるようにバランスをとろうとする」というものです。

 このように学びを広げると、インサイトとして応用ができそうです。

 たとえば、自己紹介をするときに、ただ自分のことを紹介することに加えて、自分が好きなものや嫌いなものを伝えることが、人との距離感を縮めるための有効な手段である、といった仮説を持つことができそうです。

 このような「ひとつのインプットから数珠つなぎで探求」したものを、私はNotionにデータベースをつくってまとめています。意識しないでそういうことができてしまう人もいますが、私のように意識して学ばないとできない方にとっては、有用な方法だと思いますので試してみてください。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。