価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

【トレンドからインサイトを導き出す】タピオカドリンクは、なぜ流行ったのか?Photo: Adobe Stock

トレンドとインサイトの関係

 ここまで「人のココロを動かして、人の行動を生みだしていく」ということを見てきました。そのためには、インサイトの発見がとても大切な鍵を握っているということもわかったかと思います。

 心理学的なインサイト、文化人類学的なインサイトを見てきましたが、他にも世の中のトレンドというものも、インサイトに大きく関係してくるものです。

タピオカドリンクが流行った理由

 たとえば、2018年頃からはじまったタピオカのブームを見てみます。インスタグラムを中心としたSNSを媒介にして若者に大ヒットしました。このブームは、なぜ起こったのでしょうか。

 要因は、いくつか考えられます。

 たとえば、コーヒーではなくカフェラテとして、甘くて飲んだら幸せな気分を味わえる発展型としてタピオカの入ったミルクティーが支持されたという視点。これも、たしかにあるでしょう。

 しかし、それだけであれば、ミルクティーやロイヤルミルクティーのブームになったはずです。

 弊社Queの中で、このブームに対して勉強会を行ったときに、社長であるストラテジストの間宮洋介が言ったのが、「おいしさではなくて、タピオカが持っている物性にポイントがあるのでは?」ということでした。

 SNSを媒介にして広がるというときに、必要不可欠な要素がある。それは、「否定されないこと」である。なぜなら、否定される可能性のあることを、つぶやこうとしたときに、特に日本人は躊躇する、ということを言ったのです。

 たとえば、「このタピオカドリンク、めちゃおいしかったあ」と言いたくなることが価値なのであったとしたら、あまり拡散しないのでは、ということなのです。なぜなら、その投稿を見た誰かに「いや、そんなにおいしくないし」と思われたら嫌だな、という思いも同時に出現してしまうからです。

 そうではなく、タピオカが持っている物性にこそ、拡散される要素が内包されていた、と言うのです。

「このタピオカ、めちゃくちゃデカかったんだけど」(たしかにデカイ)
「このタピオカ、めちゃぶよぶよしてるんだけど」(たしかに歯ごたえすごい)
「タピオカの量が半端ないんだけど」(たしかにすごい量が入ってる)

というように、物性的な価値がタピオカドリンクに入っていたからこそ、否定し得ない価値を伝達することができて、結果として、あらゆるところで放射状に価値拡散が行われたという仮説です。

否定されるおそれのあるものは、拡散されにくい

 この話を聞いて、私は、当時のインスタグラムを分析してみました。英語のハッシュタグのランキングと、日本語でのハッシュタグのランキングを調べてみました。すると、面白いことが発見できたのです。

 英語での1位は「#LOVE」でした。

 一方、日本語での1位は「#猫」でした。これは、1位以下のランキングも、同様の傾向が見られました。

 英語では、「#LIKE」「#Myfaborite」など、自分の「感情のシェア」が続々とランクインしている。日本語は、「#ファッション」「#ランチ」「#ネイル」「#旅行」など、感情のシェアではなく「カテゴリーのシェア」が上位を占めていたのです。

 ここから見えてくるインサイトとしては、日本においては、「否定され得る価値の伝達」はなかなか流通しづらい、というものです。

 これは、行動としても表れてきています。たとえば、映画などのコンテンツにおいても、自分の意見を言う前に、レビューを見てから発言している人が多くなっているという傾向です。

「(映画評論家の)◯◯さんは、ダメって言ってたけど、自分的には最高でした」とか、「◯◯のおすすめするだけの価値あった、涙腺やばい」など、否定されにくい予防線を張った上での発言がよく見られるのです。

 このように、世の中のトレンドを追って、その事象が起こっている背景にはどんなインサイトが潜んでいるのか探っていくことで、強いアイデアを生みだしていくヒントを得ることができます。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。