価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

「インサイト発見力」を高める3つのアプローチPhoto: Adobe Stock

ゴミは汚いから、見えないようにしたほうがいい?

 前述のように「いいアイデア」を選ぶためにはインサイト発見力が必要になってきます。

 このインサイト発見力は、どうしたら身につくのでしょうか。また、事例を挙げて説明してみましょう。

 ダイソンが「吸引力が変わらないただひとつの掃除機」というキャッチフレーズとともにサイクロン式の掃除機をヒットさせましたが、これは吸い取った掃除機のゴミが見えるように、透明な機構にしたところも卓越したアイデアだと言われています。

 ゴミは、汚いから見えないようにしよう、というのがそれまでの掃除機のデザインの基本でしたが、設計したダイソン本人にとっては、確固たる自信があってのことだと考えられます。

 ゴミは汚いから、見えないようにしたほうがいい。それは、その通りです。

 けれど、はなをかんだときを、思い出してください。

 どんな行動をするのでしょうか。

 私は、キレイにスッキリとかめたときほど、ティッシュを閉じずに取れた鼻水をチェックします。ちょっと想像すると汚いですが、こんな行動をするのは私だけではないはずです。たくさん取れた、という結果を確認するのは、生理的に気持ちがいい。

 とすると、「吸い取れたゴミは、隠すものではなくて見えるようにするのがいいアイデア」ということになるのではないでしょうか。

 ダイソンは、吸引力で掃除を強力に手助けしてくれるだけでなく、その吸引力で吸い込んだゴミが可視化されている気持ちよさも、プロダクト価値を高めているし、同時にその吸引力を人に伝えやすくしているのだと思います。

体によさそうなものは、どんな味?

 他にも、ちょっと古い事例ですが、こんなことをインサイトとして挙げてみたいと思います。

「マズイ! もう一杯」

 この言葉に若い方は、ピンとこないかもしれませんが、青汁のCMとしてすごくインパクトのあるものでした。

 これは、CMとして売上にとても貢献したものと言われていますが、なぜ、マズイと言った商品が売れたのでしょうか。

 ここには、あるインサイトが隠されています。

 それは、「おいしくないものが体にいいものだ」と思ってしまう共通の心理があるからです。

「良薬は口に苦し」ということわざがあるように、おいしい青汁です、というよりも、おいしくないと言ったほうが「体によさそう」と思わせるチカラがあるのです。

 これと同じ考え方で、ヒット商品を生みだした例があります。

 栄養ドリンクとして、確固たる地位を築いているアリナミンVという商品は、比較的後発で市場導入された商品でした。そこでフォーカスを当てたアイデアが、タウリンなど効能成分がどれだけ入っているかということに加えて、味を苦さという方向に振ったことです。競合となる商品が、飲みやすさの追求を行っている中で、ある意味、逆張りを行ったのです。

 結果として、「この苦さが『効いてる』って感じがするんだよな」というファンを生みだし、後発ながらヒットするに至ったのです。

人間行動の共通項を知る

 このように、インサイトを発見していくには、その分野の専門的な知識ではなく「周辺知識」とも言える、敷衍可能な人間行動の共通項のようなものへの気づきが大切になってきます。

 それは、ネガティブな感情、ポジティブな感情の双方にあります。

 インサイトの発見力を鍛えるためには、私は3つのアプローチをとっています。

 1つ目は、自分のココロに耳を傾けること。先述したストレスリストをつくることや、逆に、自分の気持ちがポジティブに動くポジティブリストのようなものをつくることもいいでしょう。

 2つ目は、他者を観察することです。ファストフード店などで若者が話していることに耳を傾けてみる。自分がターゲットではないSNSから、その発言の裏にある思いを想像してみるといいでしょう。

 3つ目は、調査や分析レポート、論文や書籍から、人間の普遍的な心理、世代における価値観の違いなどを把握すること

 私は、これらのインプットを通じて、インサイト発見力を鍛えるようにしています。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。