錦織圭、マリア・シャラポワ、大坂なおみ、ネリー・コルダ……指導した数々の選手を世界トップレベルに導いてきたトレーナー界のカリスマ、中村豊。彼に指導を受けた選手たちは、アスリートとして大幅なステップアップを遂げています。
中村はトレーニングによってのみ身体能力が向上するわけではなく、必要なのは「トレーニング」「リカバリー」「栄養」の3つのメソッドだと語ります。そして、この3つを適切に行えば、一般の人でも身心が健全に整い、若さを持続できると主張するのです。その実践方法を分かりやすく具体的にまとめたのが、中村の初著書『世界最高のフィジカル・マネジメント』です。本連載では同書から「誰もが自宅で簡単にできるフィジカル・トレーニング」を紹介していきます。
ジムトレーニングで最もポピュラーな「ベンチプレス」。ベンチプレスで何キロの重量を挙げられるか、というのは筋トレマニアにとって最も分かりやすい指標でしょう。しかしトレーニングにおいて本当に大切なのは、正しいフォームで行うことです。今回紹介するのは、自宅でも行えるダンベルを用いたベンチプレスです。ダンベルを使うことで正しいフォームが身につき、より効果的な筋トレができるのです。

ベンチプレスは重量より正しいフォームで行うことが重要Photo: Adobe Stock

どの筋肉を鍛えているか意識すれば
効果は倍増する

 僕はこの連載で何度かお伝えしていますが、トレーニングを行う際に最も重要なのは、正しいフォームで行うことです。さらに、そのトレーニングがどの部分の筋肉に効いているのかを意識すると、より効果が高まります。ベンチプレスも重い重量を挙げることより、まずは正確な動作で行うことを目標としてください。

 ベンチプレスは上半身全体を鍛えることができますが、主に大胸筋の強化を目的としたトレーニングです。また、肩の三角筋や上腕三頭筋にも効果があります。

 今回紹介するのは自宅でも可能なダンベルを用いたベンチプレスです。バーベルと異なり、ダンベルは左右それぞれの手で持ち上げるため、動作がブレやすくなります。それゆえ、より正しいフォームのチェックが可能になるのです。

身体の動きに集中することで
トレーニング効果がより高まる

 ダンベルを用いたベンチプレスはバーベルと比較すると動きの自由道が高くなるため、軌道を調整しながら行う必要があります。動きがブレないよう、より高い集中力が必要になり、これがトレーニング効果を高めます。

 まず【写真1-1】【写真1-2】のように、ベンチの上では身体(頭、両肩、腰、両足)をしっかりと固定させる事が大切です。ダンベルは両肩の真上に挙げ、肩甲骨を絞った状態で顎を引きます。

ベンチの上では身体をしっかりと固定する【写真1-1】真横から見た状態

 

ダンベルは両肩の真上に挙げる【写真1-2】正面から見た状態

 次いで【写真2-1】【写真2-2】のようにダンペルをゆっくり胸付近まで下ろしていきます。そのときに、胸を張って意識的に大胸筋をストレッチさせることで、より高い効果が期待できます。両肘の位置が脇から45度に位置するよう意識することで、肩にかかる過度なストレスを軽減させることができます。

胸を張って意識的に大胸筋をストレッチさせる【写真2-1】真横から見た状態

 

両肘の位置が脇から45度に位置するよう意識する【写真2-2】正面から見た状態

 一連の動作を5回行ってください。下ろすときは3秒、上げる時は1~2秒のテンポが理想的です。フォームが安定してきたら、次第に回数を増やすと、より効果が高まります。

(本記事は、『世界最高のフィジカル・マネジメント』の著者が書き下ろしたものです)

中村 豊(なかむら・ゆたか)
ストレングス&コンディショニングコーチ
1972年生まれ。高校卒業後アメリカにテニス留学。スポーツトレーナーという職業に興味を持ち、カリフォルニア州チャップマン大学で運動生理学、スポーツサイエンスを学ぶ。1998年、サドルブルック・テニスアカデミーのトレーニングコーチに就任。2000年、女子テニスプレーヤー、ジェニファー・カプリアティのトレーナーに就任し、翌年世界No.1に導く。2004年よりIMGアカデミーに所属し、錦織圭のトレーニングを14歳から20歳まで受け持つ。2011年よりマリア・シャラポワの専属トレーナーに就任。シャラポワの黄金期を7年間支える。2020年6月、大坂なおみの専属トレーナーに就任。わずか2ヵ月でスランプに陥っていた大坂を再生させ、全米、全豪と立て続けのメジャータイトル奪取に貢献。世界のプロスポーツ界で最も注目されるフィジカルトレーナーのひとり。トレーナーとしての豊富な経験と知識を生かし、一般の人に向けた入門書『世界最高のフィジカル・マネジメント』を上梓した。