斜陽産業とされる繊維を中心とした化学メーカーながら独自のビジネスモデルで安定的な高収益構造を築きつつある東レ。その確立には、成長の立役者である炭素繊維などで次なる一手が必要だ。

「ボーイング787(B787)向けの炭素繊維出荷は計画通り推移している」

 日覺昭廣・東レ社長は、2月7日の決算説明会で、自信を持って答えた。

 バッテリーの発煙などが原因で運航停止という緊急事態に陥ったB787は機体の半分以上が軽量・高強度の炭素繊維で造られている。特に1次構造材と呼ばれる主要部分は東レの独壇場。全量を供給しているだけに、関係者は東レへの影響を注視していた。

 トラブルの犯人捜しがなされる最中も、当の東レは炭素繊維事業への自信を崩さなかった。理由は二つある。

 第一に「炭素繊維は1995年からB777の尾翼に採用されるなど、1次構造材として豊富な実績を持っている」(内田章・東レ常務)ため、自らの素材が今回のトラブルの原因ではないと確信していた。

 納入遅延になると周囲が懸念する中でも、簡単には納入がストップしないと読んでいた。米ボーイング社の生産体制は現在、月産5機だが、年末には月産10機へと倍増させる計画であり、この計画を崩すような発注変更はそうそうできないはずだった。

 第二に、炭素繊維事業はB787だけに依存していない。炭素繊維複合材料セグメントの売上高の1~2割を占める屋台骨ではあるが、B777、B737、エアバス320という既存機種向けの販売も堅調だ。

 ゴルフクラブなどのスポーツ用途は在庫調整が進んだために単価が下落して他社は大きく業績を落としたが、東レはもともとそうした汎用品の比率が低い(図1)。

 成長市場といわれる炭素繊維の中でもとりわけ利益が出やすい領域に集中してきたのである。

 こうした戦略を徹底したことで、炭素繊維複合材料セグメントは2013年3月期で10%超という高い営業利益率を見込んでいる。