価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

あなたのアイデアを実現するために必要なものとはPhoto: Adobe Stock

社会運動はどうやって起こすか

 ミュージシャンや起業家として紹介されるデレク・シヴァーズが、TEDで語った「社会運動はどうやって起こすか」という有名なプレゼンテーションがあります。NHKの番組『スーパープレゼンテーション』の中でも放映されたので知っている方も多いかと思います。

 このプレゼンテーションでは、一本のビデオが紹介されます。丘の中腹にあるような芝生の広場で、様々な人たちが芝生に座って談笑しています。すると、その群衆の中からひとりの男性が裸になって奇妙な踊りをはじめます。

 しかし、しばらくの間は、何も起こりません。誰も気に留めていなかったり、変な人がいると思って見ないようにしているのか、あえて注目しないようにも見えます。呆気にとられている人もいるでしょう。

 ところが、あるひとりによって状況が変わります。

 この裸で踊っている男性の隣で、一緒になって変な踊りの動きを真似する人が出てきます。そしてなぜか、とても楽しそうに踊っています。

 すると、どうでしょう。このひとりの男性の隣で踊る人によって、状況はさらに変わります。2人、3人とだんだん真似して踊り出す人が増えていくのです。そうすると、さっきまで見て見ぬふりをしていた人も、踊りに参加しはじめます。

 そして、この踊りの集団を遠くから見ていただけの人も、駆け寄ってきて踊りに加わります。最後は、ものすごい人数になって、画面に映っている人全員が、踊っている状態になるのです。

 あるひとりからはじまった奇妙な踊りが、あっという間に広がり、みんなが参加するものに変わった。この短時間の出来事を紹介しながら、デレク・シヴァーズは、こう述べます。

最大の教訓は、リーダーシップが過大に評価されていることです。たしかにあの裸の男が最初でした。彼には功績があります。でも、ひとりのバカをリーダーに変えたのは、最初のフォロワーだったのです

 この言葉の通り、誰もが見て見ぬふりをしていたときに、彼の踊りを楽しそうに真似しはじめた最初のフォロワーがいなかったら、この状況は生まれなかったでしょう。

 このことは、アイデアを実行して広げていくために、とても参考になると思います。

仲間を増やすための
「伝えるアイデア」を考える

 アイデアをむやみに広げていくのではなく、まず、最初のフォロワーをどう獲得するのか。言い換えるなら「仲間」をつくるために、アイデアをどう伝えていくべきなのか。

 例に挙げた動画のように、最初のフォロワーを獲得するための「伝えるアイデア」を考えていくことが必要です。

 ここで大切なのは、いきなり「みんな」や「たくさん」を目指すよりも、「ひとり目のフォロワーを獲得するということに注力する」という視点です。

 マーケティングにおいてよく言われるように「みんな」というユーザーはいません。ひとりに絞ってしまうと、みんなに届かないのでは、と危惧されることも多いですが、ひとりにさえも刺さらないような「伝え方」では、誰のココロも捉えることはできません。

 逆にひとりのココロを動かすことができれば、その人に共感する層にも自然に広がっていきます

 そんな最初のフォロワー(仲間)に向けて、どうアイデアの共有をしていけばいいかを考えていきましょう。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。