意思のないAIには無理な
公務員ならではの仕事とは?

「公務員」はAIに仕事を奪われる?それとも生き残る?AI研究者の意外な予測結果とは10年後のハローワーク』(川村秀憲 著、アスコム、税込1650円)

 AIの活用においては、機密、プライバシーの保持面からさまざまな意見が出ていますが、愛知県や名古屋市ではすでにAI活用におけるガイドラインを作成し、神戸市では条例としてAIの使用ルールを定め、2024年から実際に活用していくそうです。この過程における報告書では、市職員の96%が効率向上を実感し、従来は30分ほどかかっていた作業が数秒で終わる例もあったと言います。

 また、NTT西日本とマイクロソフトは、共同で自治体向けのDXやAIの導入を支援する協業を始めています。

 こうしたかたちでの作業の効率化は、民間同様どんどん進められるべきですし、また成功裏に進めば進むほど、人材は不要になっていくことも考えられます。

 半面、政治的な意味での意思決定に、公務員の仕事が深く関わっていることもあります。

 賃貸物件を決めるのと同様、限りある財源とさまざまな政策パッケージがある場合、結局、有権者や市民はそれぞれに利害が異なるため、AIに向くような合理的な作業ではものごとが決まりません。

「公務員」はAIに仕事を奪われる?それとも生き残る?AI研究者の意外な予測結果とは出典:『10年後のハローワーク』(川村秀憲 著/アスコム)

 新しい公園をどこに作るか、補助金の対象を何にするか、子どもの医療費を補助すべきか、それとも高齢者福祉に使うのか……こうした選択は政治や行政の場でつねにつきまといますが、結局最後は話し合いなどのプロセスで意思決定するしかありません。こうした「町と人の生活を作る」作業は、意思のないAIには無理なのです。

 従って役所では、作業は今後も比較的スピーディーにAIなどによって効率化され、私たちもその恩恵をわかりやすく実感するタイミングが来るでしょう。

 一方で、公務員に残されるのは、高度な意思決定に関係する重要な仕事となります。もしかすると、公務員個人の本音としては、あちらを立てればこちらが立たないような話をうまくAIがまとめてくれたら角が立たずに助かるのかもしれませんが、その期待はしないほうがよさそうです。

 ゆえに、今後も幹部の公務員には、重いプレッシャーがかかり続けると予想されます。AIの「侵食」を受けないのはうらやましいと思うかもしれませんが、それはそれで大変な役割が、かえってクローズアップされることにもなります。