古本屋店主が一発で見抜く、本を「愛してる人」と「愛してない人」の違いとは?写真はイメージです Photo:PIXTA

新刊書店などと違い、独特の世界観を醸し出す古本屋。「どんなルールがあるかわからないため、入ってみたいが勇気がない」という人も多いのでは?そこで、古本を愛しすぎる著者が基本的な“古本屋のお作法と流儀”を徹底レクチャー。これさえ読めば、古本屋に行くのも怖くない!?本稿は、岡崎武志『古本大全』(筑摩書房、ちくま文庫)の一部を抜粋・編集したものです。

初心者が知っておくべき
古本屋の作法とは

 いろいろな店主から話を聞いてみると、本を棚から抜いて、それを同じ場所へ戻す仕草でその人が本当に本を好きなのかどうかが判るらしい。

松浦弥太郎『本業失格』
(ブルース・インターアクションズ・2000年)

 本を扱いなれていない人には、不思議に思えるかもしれないが、この話は本当です。私だってわかる。本をどれだけ愛し、幾千万冊の本を手のひらに乗せ、滑らせてきたかが、何げない所作に現れるのである。

 楽器にたとえればわかると思うが、いつもその楽器を触っている人と、初めて持った人ではあきらかにそのたたずまいが違う。ミュージシャンで、平常はだらしなく、役立たずみたいに見える人が、ひとたび自分の楽器を持ったとたん、人が変わったようにシャンとし、ピタリと決まるところは想像するにたやすいと思う。

 本もいっしょだ。本を扱いなれた人は、本棚の前に立って、ページをめくるとき初めてその人が格好よく見える。私もほかのことはてんで自信がないが、古本屋の本棚の前に立って、手に本を持たせればちょっとしたものだと思っている。

 これだけは年季が違う。

 長年、帳場から客を眺めてきた古本屋店主には、当然ながらそれがすぐわかるのである。

 そこで、古本屋初心者でも、ビクビクしないで堂々と古本屋とつきあえる作法を指南したい。あくびの作法を教える「あくび指南」という落語があるが、これはその古本屋版。茶道のお手前と同じく、古本道にも作法がある。それをわきまえて、古本屋回りをしないと、いい客にはなれないし、店主ともいい関係を作れない。これは古本にかぎらずどの分野でも同じだ。

古本を濡らすのはNG
傘は畳んで入店せよ

 まずは店の前に立ったとき。雨の日なら傘をまず畳み、水滴をよく切ってから、傘立てがあれば必ずそこへ傘を置くこと。本は紙でできている。紙は火と水が大敵だ。濡れた傘を腕にかけたまま店の中へ入ってこられたんじゃ、店主の心臓はいくつあっても足りない。

 以下すべてに通用することだが、古本屋の商品である本はすべて返品不可能な、その店の財産なのだ。濡らしたり、傷めたりすると、買い取らない限り、それは強く言えば犯罪行為となる。よくよくこのことは肝に銘じておかねばならない。