人間の身体の老廃物はリンパ液によって排出されます。しかし、脳にはリンパ管が存在しないため、脳血管周囲の髄液で満たされた空間を「グリンファティックシステム」と呼ぶようになりました。

 最近になり、この空間が脳脊髄液を導く管であり、脳のリンパ管とも言える役割を果たしていて、とくに睡眠中にアストロサイトの体積が縮小してこの空間が広がり、脳脊髄液が脳組織を通過しやすくなることがわかってきました。よい睡眠中にこそ脳の間質に存在する老廃物が効率的に除去されるため、睡眠不足は脳機能低下の原因となると言われています。

脳の最新研究でわかった
「カロリー制限」の効果

 2021年の「サイエンス誌」に、東京大学医科学研究所の中西真教授らの研究グループが、老齢のマウスにGLS-1という酵素の働きを阻害する薬剤を投与したところ、老化細胞の多くが除去され、老年病や老化が改善したと発表されました。

 老化は、ゲノムの守護神とも言われるP53という遺伝子が特定の時期に活性化することで細胞が増殖サイクルから外れることから始まるということがわかっています。そこでこの研究ではP53遺伝子を活性化させ、純化した老化細胞を人工的につくり出しました。

 この人工老化細胞に影響を与える遺伝子をスクリーニングすると、GLS-1という酵素が老化細胞において特異的に高く発現していることがわかりました。

 そこで中西教授らは60歳の老いたマウスにGLS-1の阻害薬を投与してみたところ、老化細胞が選択的に死ぬだけでなく、筋力が30歳レベルまで回復したことが観察されました。

 さらに老化に伴う腎機能低下と加齢による線維化した肺機能が回復し、動脈硬化も大きく改善するという結果が得られたそうです。老化そのものが病気であり、治療できるとする学説も生まれています。

 また、最新のアンチエイジング研究では、サーチュインという物質が注目されています。サーチュインは体内を駆けずり回って、どの遺伝子にスイッチを入れ、どの遺伝子をオフのままにしておくのかを調節しています。それによってDNAの修復や細胞をストレスから守ったり、老化の原因である酸化を防ぎます。サーチュインは細菌から哺乳類までがもつサーチュイン遺伝子からつくられているタンパク質です。