フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える

ヒュンダイ改めヒョンデ(現代自動車)のEV「IONIQ5(アイオニックファイブ)」。そのハイパフォーマンスカー版として登場したのが今回試乗した「IONIQ5 N」である。本連載で紹介したマツダND型ロードスターは136馬力、日産R35型GT-Rが570馬力なのだが、IONIQ5 Nはなんと609馬力、ブーストボタンを押せば10秒間だけ650馬力になるという怪力EVである。さらには「EVならでは」の機能をてんこ盛りにした上で、価格は858万円~と、競合するスポーツカーに比べると圧倒的に安い。いったいどんなクルマなのか、じっくりと試乗してきた。(コラムニスト フェルディナント・ヤマグチ)

韓国ヒョンデのハイパフォーマンスブランド「N」をご存じか

 トヨタはGR。日産ならNISMO。スバルのSTIにホンダの(ミニバンと軽ばかりなので、これを入れて良いかどうかビミョーなところだが)モデューロX……各自動車メーカーが手掛けるサブブランドのパフォーマンスモデルが人気である。

 欧州に目を移すと、メルセデスのAMG、BMWのM、アウディのアウディスポーツが同様に人気を集めている。いずれもラインナップの上位に配され、結構な価格設定にも関わらずセールスは好調である。高く売れるクルマは当然利益率が高い。どのメーカーも、こうしたサブブランドの育成に余念がない。

 で、韓国のヒョンデである。

 ヒョンデには「N」というハイパフォーマンスのサブブランドがある。ニュルブルクリンクのN、ヒョンデの高性能車開発部門が置かれる南陽(Namyang)のNが命名の所以(ゆえん)である。

「ヒョンデとニュル」。すぐにはイメージが結びつかないかもしれないが、実際にヒョンデはニュルのコース脇に大きなテクニカルセンターを構え、巨額の費用を開発に注いでいる。10年ほど前にGT-Rの取材で同地を訪れた際も、ヒョンデのチームはコツコツと地道な実験走行をサーキットで繰り返していた。その時は誠に失礼ながら、「ヒュンダイ(当時はこう呼んだのだ)ごときがニュルで何してんの?」と思ったものだった。今や昔である。今のヒョンデの強さは、WRCのリザルトを見れば分かる。日本の市場から撤退している間に、ヒョンデはしっかりと実力を付け、EVとFCVを引っ提げて一昨年日本に再上陸を果たした。そして今年になり、化け物のような超強力EV「IONIQ5 N」を市場に投入したのである。ニュルの名前を冠して。

ヒョンデのハイパフォーマンスEV「IONIQ5 N」。同社のハイパフォーマンスブランド「N」を冠するだけあり、ノーマルな「IONIQ5」とはまったく違うクルマに仕上がっているヒョンデのハイパフォーマンスEV「IONIQ5 N」。同社のハイパフォーマンスブランド「N」を冠するだけあり、ノーマルな「IONIQ5」とはまったく違うクルマに仕上がっている(広報写真)

 ヒョンデは本気で走り込んでいる。最後の仕上げにチョロっとニュルの北コースを走り、車名に「ニュル」の名前を付けてしまう、いわゆる「なんちゃってニュル」とはワケが違う。

 650馬力という、信じられない馬鹿力を発生する韓流EVの実力やいかに。5日間にわたって、たっぷり500キロを試乗した。