遺産の全部または一部を、社会貢献団体や自治体などに寄付する「遺贈寄付」。法定相続人がいない人や、社会貢献したいと考える人たちを中心に広がりつつある。AERA 2024年8月5日号より。
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黒瀬匡子さん(67)が自身の遺産の行く末を考えるようになったのは、約5年前に母が亡くなった時のこと。死後事務の最中、母の財産を管理していた信託銀行の財務コンサルタントから遺言書を書くことを勧められたという。
黒瀬さんは未婚、子どもはいない。一人っ子で父も既に他界していた。法定相続人がいないため、遺言で遺産の行き先を指定しない限り、死後は国庫に帰属することになる。それは「なんとなく、嫌だった」。一度は、仲の良い親類へ渡すとの遺言を書いた。だが、彼女も生活に困っているわけではない。
「ならば、少しでも社会に役立てられないかと思ったんです。どれだけのお金が残せるかはわかりませんが、たとえ少額でも、自分の思いを形にしてくれる団体に寄付するのがいいだろうと考えて、遺言書を書き直しました」(黒瀬さん)
犬の保護活動団体へ
寄付先として選んだのは、保護犬のトレーニングや譲渡活動を行うプロジェクト「ピースワンコ・ジャパン」の運営元である認定NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」だった。黒瀬さんは大学1年の時、捨てられていた犬を家族の一員として迎えた経験がある。その犬が亡くなったあとには、保護犬を引き取って育てていたこともある。
「私も母も、いつもワンちゃんに癒やされていましたし、生活に彩りを与えてくれる存在でした。そのことへの感謝もこめて、犬の保護活動をしている団体に寄付しようと思ったんです」
黒瀬さんは以前から、ピースウィンズ・ジャパンを含めた複数の団体に少額の寄付をしていた。その中から、特に寄付を必要としているだろう団体、そして、不動産も含めて寄付を受けてくれる団体に絞り込んでいった。遺言書を作成する前には実際に保護犬のシェルターも見学に行ったという。