日本経済、そして日本企業にとって最大の課題は、人手不足だ。その解決のため、労働生産性の向上はいま、万人が望む施策である。まさにそれを目的として1955年に設立された日本生産性本部が、経営層向けに毎夏実施し、今年で66回目を迎えた「軽井沢トップ・マネジメント・セミナー」を取材した。その総合コーディネーターを務めた冨山和彦氏の講演に、フォロー取材を加えて、談話記事としてまとめた。(文/ダイヤモンド社 論説委員 大坪亮)

生産性向上が日本全体で渇望されている。方法論としての2種類の「両利きの経営」写真提供:JPiX

お客様がテレビに求める
付加価値とは何か

 労働生産性、より正確に言えば、付加価値労働生産性を高めることはいま、最も重要な経営課題になっています。個々の企業にとっても、日本経済全体にとっても、です。日本の就業者1人当たり労働生産性(=付加価値/就業者数)は、先進国が加盟するOECD(経済協力開発機構)38カ国中29位、1970年以降最も低い順位です。先進7カ国(G7)では最下位です(公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2022」)。

 日本の労働生産性の低さは、以前から問題視されていましたが、今日、人手不足が深刻で、その解決策として労働生産性向上は従来にも増して重要になっているのです。

 背景にあるのは、経済状況の大転換。ご存じの通り、長期的に、人口は少子・高齢化が進んでいます。私も参画している岸田政権の「新しい資本主義実現会議」ほかいろいろな形で対策が検討され、政策は打たれ始めています。子どもを産み育てやすい環境や、女性や高齢者の労働参加率を向上させる環境を整えるなど、ですが、これらは想定通り効果が出るとしても、時間がかかります。

 人手不足対策は、待ったなしの状況です。コロナ禍で需要が低迷していたのが、その沈静化によって、買い物や外食などいわゆる「リベンジ消費」が隆盛したり、円安でインバウンドが回復したり日本人も海外でなく国内観光を選択したりなど、需要急増の要因が重なっているからです。

 中長期的にも短期的にも、より少ない労働力で、より多くの付加価値を創出することで、労働性生産性を高めることは、日本全体の目標といえるのです。景気低迷期に実施しせざるを得なかった人員整理などによる労働生産性向上策は、働く人の側から反発がありましたが、いまは違う。万人が、生産性向上を求めている状況です。

 そして、モノの価格が上がるインフレーションの傾向も出てきている。円安による輸入原材料価格上昇のコストプッシュという面は強いけど、今年の春闘に顕在化したようにインフレに伴って賃上げも始まっています。パートなど非正規雇用者の賃金も上がってきています。この傾向が続き、それに伴って金利も上がり始めると、正常な経済循環に入っていくことになります。

 企業も、我慢の時期を経て、商品の値上げを始めています。ただし、ここで改めて考えるべきは、「お客様が何に対して、どういう価値に対して、お金、代金を払ってくれるのか」ということです。直截的に言えば、従来の延長線での単なる値上げではダメということです。

 私は、パナソニックの社外取締役を7年間続けていて、いま、業績向上の芽が出てきているのを感じます。例えば、テレビが売れるようになっています。買い替えを控えていた方が、家電売り場に戻っているのかもしれません。しかし、お客様がテレビに求めているものは、変わっています。

 かつては主にテレビ局の放送を見る受像機としてのテレビでしたが、いまはNetflixやAmazonプライム、YouTubeなどのインターネット配信によるコンテンツを見たりオンラインゲームを楽しんだりする多様な用途のための機器に変わっています。ですので、例えば画像の美しさや録画容量の大きさなどに対して、かつてほどの付加価値をお客様が見てくれなくなっています。

 戦後、「三種の神器」の一つとしてテレビが爆発的に売れた時は、多忙な庶民にとって気軽に楽しめるテレビ番組を、無料で受信できる、テレビ受像機に価値がありました。分厚い中間層に対して、手が届く価格でテレビを販売するための、少品種・大量生産の供給体制が家電メーカーには求められていました。この時点で求められる労働生産性は、より少ない労働投入量(人と時間)で大量生産するという、どちらかというと分母の話です。

 これに対して、いま考えなければいけないのは、分子の付加価値をどのようにして持続的に高くするか、です。したがって、いま、単に需要が戻って、売上高が前年比アップしたからといってぬか喜びしてはいけない。どこに、お客様は付加価値を見て、対価を払ってくれるかを、真剣に考えないといけません。持続的に、自社製品を選んでもらうには、どんな付加価値が必要かの視点が重要なのです。

 そこで企業間で差が出てくる要因の一つが、テクノロジーの活用です。急速に進歩するテクノロジーをいかに活用して、お客様が求める付加価値を打ち出すか。差を付けやすい要因はテクノロジーですが、「お客様が求める価値」の創出がとても重要です。独り善がり、研究者や生産者、企業本位の価値ではダメなのです。これは当然、あらゆる産業にいえることです。