
窪園博俊
トランプ米大統領が米国の景気を浮揚させようとして米連邦準備制度理事会(FRB)に圧力をかけている。インフレがくすぶっているにもかかわらず、大幅な利下げを求め続けているのだ。実は、政権トップによる中央銀行支配には先行事例がある。日本の故・安倍晋三元首相だ。日銀ウォッチャーが、安倍氏の事例を踏まえながらトランプ大統領のFRB介入の勝算を占う。

米大統領選挙は共和党のトランプ氏が勝利した。共和党は上院と下院の両方を制し、政権と議会を押さえる「トリプルレッド」となった。接戦予想が裏切られ、トランプ共和党が圧勝した事実は、今後の金融経済情勢に大きな影響をもたらす。金融政策の観点で考察すると、特にトランプ氏の「保護主義」は、米経済のインフレ再燃を通じて、日銀の金融政策が複雑骨折しかねないリスクをはらむ。

8月初旬の日本株暴落のきっかけは、「植田日銀の利上げが遅れたことにある」――との声が日銀OBなどから上がっている。つまり、慎重な政策運営が裏目に出たというわけだ。だがそもそも、その慎重さは「速水日銀」の利上げ失敗を“反面教師”にしたものである。当時の速水優総裁は任期中に「ゼロ金利」の解除を決断。不運にも、この利上げから間もなく景気は低迷した。今後の情勢次第で植田日銀は、反面教師と似た失敗を繰り返す恐れがありそうだ。

4月下旬に1ドル=160円台と1990年以来34年ぶりの円安水準に振れた為替相場。生活を直撃する円安に警戒感を強めた岸田文雄首相は植田和男日銀総裁と会談し、“円安阻止”で歩調を合わせた。中央銀行の役割は本来「物価の安定」にあるが、金融政策は常に為替に振り回されてきた。そして今、かつて例を見ない「円安阻止のための利上げ」を試す可能性も出ている。

黒田東彦前日銀総裁が2013年から始めた大規模緩和が、ついに終わった。今後は植田和男総裁の下で、短期金利を操作して経済・物価の安定を図る伝統的な手法に戻る。だが、日銀が望む「賃上げと物価の好循環」が起き、物価2%で安定するかは不透明だ。今後の追加利上げの可能性、賃金と物価の行方を予想する。
