ベンチャーウイスキーの前身の酒造会社が譲渡され、廃棄処分が決定したウイスキー原酒を、山口氏は自社貯蔵庫で引き受けることを即決。「廃棄は酒類業界の損失でしかない、許せないという一心でした」と振り返る。肥土氏は笹の川酒造を販売元として「イチローズモルト」を発売。後に世界を席巻することとなる。

東北の老舗酒蔵のチャレンジが生んだ“世界一のウイスキー”が話題に2基のポットスチルを設置。ポットスチルの形によっても味が変わり、同社ウイスキーは重厚な味わいが特徴

 肥土氏の熱い思いに触れ、「小さい会社なりの戦い方があると学びました」と山口氏。ハイボール人気などの“風”も受け、15年、創業250周年を契機にウイスキーの蒸留釜「ポットスチル」を導入。16年、貯蔵庫を改造した「安積蒸溜所」が稼働。19年にはこの施設初のシングルモルト「安積The First」を出荷する。

 21年には「安積The Fitst PEATED」が国内のコンペティションで金賞受賞。翌年には世界でも権威ある「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)2022」で、同社の「山桜 ブレンデッドモルトシェリーウッドリザーブ」がブレンデッドモルトウイスキー部門・世界最高賞をはじめ多くの賞を獲得。「醸造、蒸留、熟成、ブレンドの技術が世界で認められ、大きな励みになりました」と振り返る。

ウイスキーを
海外45カ国に展開

東北の老舗酒蔵のチャレンジが生んだ“世界一のウイスキー”が話題にシングルモルトの「安積」シリーズ

 同社の躍進はウイスキーにとどまらず、日本酒も各種鑑評会の受賞常連組。県産米を使った「福島一辛口」をうたう大辛口の日本酒「いち」や、22年にはいつでも搾りたてを味わえる福島県初の超急速冷凍酒「瞬香秀凍」シリーズを発売するなど、攻めの姿勢も健在だ。

 現在、同社のウイスキーは、海外では欧州を中心に約45カ国に展開。ハイエンド向けのシングルモルト「安積」、流通量の多いブレンデッドウイスキー「山桜」の二つのブランドで市場を拡大していく戦略だ。

東北の老舗酒蔵のチャレンジが生んだ“世界一のウイスキー”が話題に5種の原酒で自分好みのウイスキーを造るブレンデッド体験などができるプレミアム見学コースも提供

 日本酒も米国西海岸に出荷するなど、消費増が望める海外販売に力を入れるが、その根底には地元の活性化につながればという思いがある。

 特にウイスキーの製造には最低でも3年の月日を要す。今のブームが沈静化した際に試されるのは、本物のウイスキー造りにかける情熱と、酒の味を育む地元風土への愛着だろう。

 長年にわたって培ってきた信頼関係をベースに挑み続ける山口氏は「商売の基本は変わりません」とし、「これからも丁寧にやっていきます」と短くも強い言葉で決意を語った。

(「しんきん経営情報」2024年9月号掲載)

事業内容:清酒、合成酒、甲類焼酎、乙類焼酎、ウイスキー、スピリッツ、リキュールなどの製造・販売
従業員数:27人
所在地:福島県郡山市笹川1‐178
電話:024‐945‐0261
URL:sasanokawa.co.jp