口に含み、米の濃厚なうま味とこく、甘味を堪能しつつ、後味は爽やかな酸味が広がる――。秋田県能代市二ツ井町荷上場に位置する酒類小売店「伊藤謙商店」。同店が地元の歴史から着想し、製造・販売を手がけるどぶろくが話題だ。(取材・文/大沢玲子)
同店は、1878(明治11)年、地域の薬屋として創業。「当店がある二ツ井町荷上場地区は、『荷物』を『上げる』『場所』という意味から命名され、古くから舟運の要所として栄えてきた歴史を擁します」と、同店でどぶろく製造責任者を務める伊藤樹氏。
郷土芸能や神事など伝統行事が多く受け継がれ、伊藤氏は幼少の頃から行事に参加してきた。家業の酒店を継ぐに当たって、「地域の歴史や伝統を大事に引き継ぎ、発信していきたいという思いがありました」と語り、そのこだわりがどぶろく製造に乗り出す起点となる。
同店が構造改革特別区域法(どぶろく特区)による濁酒製造免許を取得したのは2015年のこと。2000年に、秋田県総合食品研究センターが二ツ井町の桜で有名な「きみまち阪公園」のソメイヨシノから酵母を分離し、秋田美桜酵母と命名。この酵母から造った地ビールやワインなどが地元名産として支持を集める中、「当店でも秋田美桜酵母を使い、地元の土産品として親しまれるような商品を開発したいと、どぶろく醸造にチャレンジすることにしました」(伊藤氏)。
地元の米、米麹、天然水など
地域素材にこだわる
酒類製造の知識や経験はゼロ。まずは、専門家から醸造の基本を学び、地元の農業法人に協力を仰ぎ、二ツ井町で育てた秋田米「めんこいな」を使用。
地元の酒造会社にも教えを請いながら、酒造用精米機で精米し、良質な清酒用米麹、地元の世界自然遺産・白神山地の天然水を使ったどぶろくの製造に取り組む。
約3年間かけて、オリジナルのどぶろく第1号、「美桜どぶろく きみまちの詩」が完成。地域の素材を丸ごと使い、どぶろくながら雑味の少ないすっきりした味わいを実現し、好評を博す。
きみまちの詩の製造に取り組む中、伊藤氏にはもう一つの構想があった。