だが、この値をうのみにしてはならない。5年後の予想物価上昇率を2%程度とみている企業は全体のわずか13.7%、1%程度の13%と大差ない上、5年後は不確実でイメージがないと答えた割合が43.9%もあるからだ。予想物価上昇率が全体的に上がっていることは確かだが、平均値が物価目標の2%近傍にあるとしても、そのアンカー力が強いとは思えない。

 日銀の生活意識調査からも、物価目標2%のアンカー力が弱いことがうかがえる。回答の約8割が5年後に物価が上昇するとみているが、その理由の約8割は「最近物価が上がっているから」。一方で、2%の物価目標の存在を知っているのは20%半ばしかいない。

 植田和男日銀総裁は、物価上昇率と予想物価上昇率が「2%のところでうまくどまるように、金融緩和の度合いをこれから調整していく」と述べた。だが、今後もさまざまな外的要因で物価が変動する可能性がある中、このような予想物価上昇率では、異次元緩和を正常化しつつ2%の物価上昇率を維持していくことは簡単ではない。

 正常化プロセスを多少なりとも円滑にするには、物価目標に幅を持たせることだ。物価目標をピンポイントで示す利点は、予想物価上昇率の物価目標へのアンカー力を強めることにあった。しかし、その利点にはあまり期待できず、幅を持たせて金融政策運営の柔軟性を確保できる利点の方が大きい。2%の数値は厳密な目標ではないことが明確になり、市場との対話も容易になろう。

(キヤノングローバル戦略研究所 特別顧問 須田美矢子)