英語の字面を「正しく」訳すよりも
原著者の意図をいかに読者に届けるか
その中で、原著者の代弁者として、原著者の意図がなるべく正しく読者に伝わるように橋渡しをすること――それが翻訳者の仕事です。
言い換えれば、単語の対応がどうであれ、見た目がどうであれ、原著者の意図が読者に正しく伝われば、いや、読者が読み取った意味が原著者の意図どおりであれば、結果として、翻訳者としての仕事がきちんとできたことになります。

井口耕二 著
逆に、どれほど「正しく」訳されていようと、訳文の読者が原著者の意図と異なる意味を読み取ってしまったら、その読者にとっては「誤訳」です。
整理してみましょう。狭義の誤訳は、原著者が書こうとした意味と、翻訳者が読み取り、表そうとした意味とが違っているケース。広義の誤訳は、原著者が書こうとした意味と、訳文の読者が読み取った意味とが違っているケース(理由はいろいろと考えられる)。一般的によく言われる誤訳は、読者が原文から読み取った意味と訳文から読み取った意味とが違っているケース。そういうことになります。
この中で翻訳者が多少なりともどうこうできるのは、「翻訳者が読み取り、表そうとした意味」の部分と「読者が訳文から読み取った意味」の部分です。翻訳者としては、こう書こうとしたという著者の意図までなるべく正しく把握すること、そして、ひとりでも多くの読者が著者の意図どおりの読み方をしてくれるように、ほかの解釈がしづらいように訳文を組み立てることが大事なわけです。