文章の意味はそもそも読み手次第
なにをもって誤訳というのか

 我々翻訳者にとって誤訳というのは一番いやなものですし、一番やってはならないことでもあります。ですが、人間がすることにミスはつきものであり、誤訳も完全に避けることはできないと思っておくべきです。

 そもそも、なにをもって誤訳と言うのでしょうか。一般には「原文と意味が違う訳文」を誤訳と言います。さらに言えば、現実には、「読み手が原文はこういう意味だと思った内容と、訳文はこういう意味だと思った内容がずれていたとき」誤訳だと言われます。

 でも、ですね、文章をどう読むか、どういう意味だと思うかは、実は人によって異なります。母語でさえそうです。そうでなければ、国語の試験で「ここで作者はなにが言いたいのか」などが問題として成立するはずがありません。また作家の方々も、「自分が書いたつもりとは違う読み方をされることが少なくない」などとよく言われます。

 そのあたりを考えると、誤訳というのはいろいろとややこしい話になります。まず原文の意味も、原著者が書こうとした意味と翻訳者が読み取った意味と、読者ひとりひとりが読み取る意味という具合にたくさんの意味があります。訳文の意味も、翻訳者が書こうとした意味と、読者ひとりひとりが読み取る意味とがあります。