価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

【アイデアを実現するための応援される技術(1)】目的と理由が明確になっているか?Photo: Adobe Stock

「応援される関係性構築」も
技術だと考えてみる

 アイデアを実現するためには、周りから「応援される」という観点もとても大事になります。せっかく考えたアイデアなら、反対されるよりは、応援されたほうがいいに決まっています。

 では、応援されるためには、どうすればいいのでしょうか?

 あなた自身のキャラクターがいい、なんとなく人当たりがいい、ルックスがいい、といった個人的なことではなく、「応援される関係」になるための技術がある、という視点で考えてみましょう。

 私が思うには、どんな目的を持っているのかを伝えることが、応援されるためには必須ですし、そのほうが仲間も集めやすくなります。ただ、目的については、何のためにという理由も含まれていることが大事です。

桃太郎は、なぜ鬼退治に行くのか?

 昔話に出てきた桃太郎の話を思い出してください。桃太郎は、「鬼を倒す」と言って、猿や犬や雉などの仲間を集めて鬼退治に出かけます。

 しかし、私はこのお話を聞きながら「なぜ鬼退治に行くのだろう」と、幼いながらに疑問に思ったことを思い出します。鬼が人間の生活を脅かしたことはたしかなのでしょうが、鬼たちがなぜそんなことをするのか? その理由までは、わかりませんでした。

 退治しなければいけない悪いことって何だろう、退治することで何が変わるんだろう、ということがよくわからなかったので、私は桃太郎の話に共感することができませんでした。

応援したくなる3つの要素

 一方、漫画『Dr.STONE』の石神千空に対しては、応援したいという気持ちが湧いてきます。ちなみに『Dr.STONE』とは、人類が石化した数千年後の世界で、天才高校生・石神千空が科学の力で文明を復活させていく物語です。なぜ、応援したいと思うのか? その理由を考えてみると、次の3つの応援したくなる要素が、主人公の「目標」の中には含まれているのです。

①その未来にワクワクできるか

 人類が石化してしまったおよそ3700年後の世界において、絶望するのではなく、人類が消えて滅んだ世界で自力で文明を再建し、すべての人を蘇らせていくという壮大で熱量のあるビジョンを持っていること。

②それは、その人や組織にしかできないこと

 少年ながら天才的な「科学の徒」である彼の中にある膨大な知識と、それを実現させる粘り強さと信念が感じられること。

③目標達成への道筋がおぼろげながらも見えること

 石化が解かれた仲間たちの協力、そして、人類が石化してしまったときに宇宙にいて石化を免れた父とその仲間の宇宙飛行士たちの末裔の協力によって「科学王国」は夢物語ではなく実現に向けて動きはじめていること。

未来像が見えるか

 これは、企業も同じです。

 Googleは、2004年に株式公開をするときに、「Googleの使命は、世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすることです」というビジョンを掲げました。

 こんな未来にワクワクできるビジョンに加えて、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンという創業者の2人が、スタンフォード大学の博士課程に在籍していたときに、ページランクという技術によって革新的な検索エンジンをつくりだした、という彼らにしかできないことがあること。

 そして、「世界中の情報」というものをウェブサイトに限らず、論文、地図、画像、位置情報などあらゆるものに広げ、彼らが実現しようとしている未来がおぼろげながらに見えてきていること。

 そのことから私は、Googleに対して、「応援したい」という気持ちを抱いているのです。

その未来にワクワクするか

 また、ソニーがパーパスとして2019年に定めた「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」ということに対しても、同様に「応援したい」という気持ちが起こりました。

 こちらも、同じように、その未来にワクワクする、ということに限らず、彼らにしかできないことがあり、そして、その実現に向けて動き出しているものがあり、できそうだと感じさせてくれる、という3点が満たされています。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。