価値観が多様化し、先行き不透明な「正解のない時代」には、試行錯誤しながら新しい事にチャレンジしていく姿勢や行動が求められる。そのために必要になのが、新しいものを生みだすためのアイデアだ。しかし、アイデアに対して苦手意識を持つビジネスパーソンは多い。ブランドコンサルティングファーム株式会社Que取締役で、コピーライター/クリエイティブディレクターとして受賞歴多数の仁藤安久氏の最新刊言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』は、個人&チームの両面からアイデア力を高める方法を紹介している点が、類書にはない魅力となっている。本連載では、同書から一部を抜粋して、ビジネスの現場で役立つアイデアの技術について、基本のキからわかりやすく解説していく。ぜひ、最後までお付き合いください。

【アイデアを実現するための応援される技術(3)】ヴァルネラビリティとはPhoto: Adobe Stock

パレードの先頭に立つ

 私は大学院で、情報組織論・ネットワーク論・コミュニティ論を専門とする金子郁容さんと、アメリカ研究・文化政策論・パブリックディプロマシー・文化人類学を専門とする渡辺靖さんの下で、どうコミュニティを形成して社会問題の解決を図っていくか、といったことを学んでいました。

 金子さんは、ボランティアという概念を広げた方でもあって、『ボランティア もうひとつの情報社会』(岩波新書)という書籍を著しています。

 その中で、私の記憶に強く残っているのが、

誰かがパレードの先頭に立たないとね

というボランティア活動家、モートン・ウェイバー氏の言葉です。

 金子さんは、この言葉を次のようにひも解いています。

「ボランティアの選択する、この『ひ弱い』『他からの攻撃を受けやすい』ないし『傷つきやすい』状態というのをピッタリと表す『バルネラブル(vulnerable、名詞形はバルネラビリティ vulnerability)』という英語の単語がある。」

 この概念は、ボランティアの文脈を超えて、福祉の分野でも広く使われているし、勇気・心の弱さ・恥などの研究を行っているブレネー・ブラウンのTEDの講演「傷つく心の力(The Power of Vulnerability)」でも広く知られるようになりました。

 モートン・ウェイバー氏の話に戻しましょう。

 誰かがボランティアを始めるということ、それはパレードの先頭に立つようなものです。パレードの先頭は、どうしても多くの人に注目されます。目立つがゆえに、批判や中傷の対象にもなります。それは非常にヴァルネラブル(脆弱な)な境遇だと言えます。

 しかし、だからこそ周囲は、その存在に気づくことができるのです。そして、協力しようという可能性が生まれるのです。

応援されるためには、
目的に向かって邁進している姿をさらけ出す

 ボランティアに限らず、ビジネスや何らかの活動において「応援される」ためにも同じことが言えるでしょう。

 安全圏の中で、いくら素晴らしいプランを話しても、理解はするけれど応援したい、という気持ちが芽生えるまではいかないように思います。

 周囲からの批判の矢面に立つような、ヴァルネラブルな状態に自らを置いて、目的に向かって邁進している姿をさらけ出すことも必要なのです。

 業界1位の企業よりも、追従する2位以下の企業のほうが「応援される」対象となることが多くあります。それは業界のトップシェアの企業が、業界や社会をよりよくする「パレードの先頭」に立っているようには見えず、自分のシェアを守ることに躍起になっていたり、消費者のためになるような変革にブレーキをかけているように「見える」ことも要因のひとつでしょう。

 会社の組織においても同じです。社長や経営陣が社内をはじめとしたステークホルダーから批判され「応援されていない」状態にあることが多々あります。

 事実として保身に走っているなら打つ手はありませんが、そうでないならば、ヴァルネラブルな状態に身を置いて、あらゆる決断を行っていることを伝えていくことで、もっと応援される状況はつくっていくことができるはずです。

 ・アイデアを生みだし推進していく当事者が、どれほどパレードの先頭に立っているのか?
 ・どれだけ、みんなの未来を一緒に考えるような当事者意識を持っているのか?

を伝えることによって、アイデアの評価は変わってくるのです。

(※本稿は『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』の一部を抜粋・編集したものです)

仁藤安久(にとう・やすひさ)
株式会社Que 取締役
クリエイティブディレクター/コピーライター
1979年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。
2004年電通入社。コピーライターおよびコミュニケーション・デザイナーとして、日本サッカー協会、日本オリンピック委員会、三越伊勢丹、森ビルなどを担当。
2012~13年電通サマーインターン講師、2014~16年電通サマーインターン座長。新卒採用戦略にも携わりクリエイティブ教育やアイデア教育など教育メソッド開発を行う。
2017年に電通を退社し、ブランドコンサルティングファームである株式会社Que設立に参画。広告やブランドコンサルティングに加えて、スタートアップ企業のサポート、施設・新商品開発、まちづくり、人事・教育への広告クリエイティブの応用を実践している。
2018年から東京理科大学オープンカレッジ「アイデアを生み出すための技術」講師を担当。主な仕事として、マザーハウス、日本コカ・コーラの檸檬堂、ノーリツ、鶴屋百貨店、QUESTROなど。
受賞歴はカンヌライオンズ 金賞、ロンドン国際広告賞 金賞、アドフェスト 金賞、キッズデザイン賞、文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品など。2024年3月に初の著書『言葉でアイデアをつくる。 問題解決スキルがアップ思考と技術』を刊行する。