ある日突然観光客が殺到し、オーバーツーリズム地域に…その「5大リスク」と対応策アニメ『スラムダンク』に登場した江ノ電の鎌倉高校前駅の踏切は突如アニメの聖地となり、ファンが殺到した Photo:PIXTA

閑静だった地方都市に突然観光客が急増
戸惑いネガティブな感情を抱く住民たち

 前回の記事(https://diamond.jp/articles/-/346845)において、インバウンドツーリズムを中核に据えたインバウンドビジネスは、首都圏のみでなく地方圏の持続的発展に有効であると述べた。有効活用のためには観光地域経営が必要で、それには観光促進とリスクマネジメントの両方が含まれる。最近注目を集めているリスクマネジメントの一つが、オーバーツーリズムである。

 コロナ禍を経て、内外の観光客が戻ってくるにつれて、観光客の増加が住民生活や地域生活に悪影響を及ぼす「オーバーツーリズム」が論点となってきている。この問題は京都や鎌倉などの主要観光エリアのみでなく、潜在的には日本のすべての地域に当てはまるものであり、観光事業社だけでなく、観光資源を持つすべての自治体、地域の企業にとっても重要なテーマである。 

 従来、観光客が来ていなかった地域が突然オーバーツーリズムに直面することは極めて稀であった。しかし、今後インバウンド観光客は地方により分散する可能性があり、SNSを中心としたメディアの発達によって観光客を想定してなかった地域にも突然観光客が押し寄せたり、想定以上に観光客が急増したりして、地域住民とトラブルになるケースが出てきた。準備ができていないところに突然変化が起こると、人は多くの場合上手く対応できない。

 そこで、地域住民が観光客に対してネガティブな感情を持つ可能性が出てくる。今後の観光では体験・経験価値が重要となり、その際には地域住民が観光にポジティブである必要がある。一度ネガティブになった感情をポジティブにするのは簡単ではない。ゆえに、観光客が急増した状況のイメージを膨らませ、どのような対応をするかの想定案を考えておく必要があるのだ。

 オーバーツーリズムの対応策は、観光税など行政として時間をかけて準備するべきものから、地域のDMO(観光地域経営組織)が対応すべきもの、民間の観光事業者が対応するべきものなどがあり、できる限り包括的に対応をすることで、観光客の負の側面を極小化し、メリットを享受できる。

 実は、オーバーツーリズムという用語に対する厳密な定義は存在しない。1つの定義は環境容量(Carying Capacity)を超えて、 観光客(もしくは観光関連事業者)が自然や景観、伝統的建築物などの観光資源を過剰に利用することで、この環境容量とは「ある観光地において、自然環境、社会文化にダメージを与えることなく、観光客の満足度を下げずに、一度に受け入れられる観光客数の最大値」である。

 国連世界観光機関(UNWTO)は18年のレポート“Overtourism?”において、「オーバーツーリズムとは、ディスティネーション全体またはその一部に対し、明らかに市民の生活の質または訪問者の体験の質へ過度に及ぼされる観光による悪影響」と定義している。オーバーツーリズムが発生した場合、さまざまな問題が起こる。日本総合研究所の高坂晶子主任研究員は下記の5つに分類している(『オーバーツーリズム: 観光に消費されないまちのつくり方』学芸出版社、2020年)。