セブンM&Aが8兆円規模の可能性も!クシュタールが是が非でも買収したがる無理からぬ事情Photo:Sipa USA=JIJI, Diamond

カナダの流通大手がセブン&アイグループに買収を提案している件に関して、最新報道によると8兆円規模となっても推し進めてくる可能性があるそうだ。なぜ、カナダ企業がこれほどにもセブン&アイを買収したいのか。セブン&アイが2021年に買収した米スピードウェイの経営史を専門とする筆者が、複数のデータを論拠にどこよりも詳しく解説する。【前後編の前編】(桃山学院大学経営学部教授 小嶌正稔)

なぜカナダ企業は8兆円も出してまで
セブン&アイを買収したいのか

 コンビニエンスストアのサークルKなどを展開するカナダの流通大手、アリマンタシォン・クシュタール(ACT:Alimentation Couche-Tard)が、セブン&アイ・ホールディングスに友好的な買収提案(非拘束提案)を行った。実現すれば380億ドル(5兆円)規模、コンビニ業界最大のM&A(合併・買収)となる。ただ、今の段階ではあくまで「買収の意向を表明した」という受け止めが正しいだろう。いずれにしても、大きなディールが動き出した。

 この友好的な非拘束提案(nonbinding proposal)は、実はM&Aのスタートでは特段めずらしいことではない。小売業に関する米国の事例では、2018年にアマゾン・ドット・コムがスーパーマーケット事業に進出する際、ホールフーズ・マーケットに行ったのが非拘束提案であった。何より、20~21年にセブン&アイがスピードウェイ(マラソン石油のコンビニ部門)を買収する際もこれを行った。日本国内での事例なら、イオンのダイエー買収が該当する。

 クシュタールは戦略的に、このM&A手法で現在の地位を築いてきた。14年のパントリー(約1500店舗)、16年のCSTブランド(約1900店舗)、17年のホリディ(約500店舗)がそうだ。この3案件だけでも4000店舗弱のコンビニを手に入れた。つまり、クシュタールが得意とする手法が今、繰り出されているのである。

 最新の一部報道によると、クシュタールはセブン&アイ買収で食品部門を強化していきたいとの考えを明らかにしたという。これまでのM&Aからみると、セブン&アイの上場来高値(2244円)を約5割上回る8兆円規模となっても推し進めてくる可能性があるそうだ。

 なぜ、カナダ企業はこれほどにもセブン&アイを買収したいのか。それは、毎週のようにM&Aのニュースが舞い込むほど熾烈な戦いが繰り広げられる北米コンビニ市場において、クシュタールが置かれた状況を理解すれば、「攻撃は最大の防御」になることが理解できる。詳しく解説していこう。